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73.
ぼんやりと年末の予定を立てて、ふと気づく。
おにーさんは冬生まれだって言ってたけど誕生日いつだろう?
「誕生日?元旦」
「え?1月1日?」
「そう、覚えやすいだろ」
「お祝いしてもいい?」
「しなくていいって言ってもお前はなんかしそうだな」
「うん、いつもお世話になってるからなんかしたいもん」
そうだなあと俺にできそうなことを考えてくれるおにーさん。家事をするって言いたいところだけど、俺よりもおにーさんがした方が早いし綺麗で美味しいことはよく知っている。おにーさんは俺にそういうことをさせるつもりは一切ないから、多分自分の誕生日だっておにーさんが掃除して洗濯してご飯を作ってると思う。
「特にねえな」
「むー、分かってるけどさぁ」
むっと膨れる。俺がおにーさんにしてることって、甘えることくらいだもんなあ。
「ならケーキ俺が買ってもいい?おにーさん自分に買わないでしょ?」
「お前が食いたいだけだろ」
「バレた?」
「バレるわ。いいよ、なんか買ってきて」
「どぉしよう悩むなあ」
にこにことおにーさんの誕生日ケーキを考える俺に、クリスマスは定番でイチゴショート買ってやるから被らないようにしろよと言われた。
スマホで元旦にも開いてるケーキ屋さんを調べながら、ご飯の完成を待つ。このケーキいいなぁなんてなんて思っても日が日だから開いているとも限らない。ここは無難に大型ショッピングセンターに入ったケーキ屋さんを狙う?うんうんとスマホを眺めて悩んでいるうちに机には夜ご飯があふれていた。
「おにーさん、アイスケーキなんてどう?保存が効くから前もって買えるし」
「なし。この寒いのにアイスケーキはなし」
「そっかあ」
「それより、食べるなら食べる、調べるなら調べるにしろ。行儀が悪い」
「はぁい」
行儀にうるさいおにーさんに注意されて、スマホをしまってご飯を食べた。
おにーさんが食器を洗う間にお風呂に入ろうと浴室に行くとホカホカと湯気が立っていて、おにーさんがお湯を貯めていてくれたと知る。しかも俺の着替えとパジャマ、バスタオルまでまとめて置いてくれている。俺のことをどんどん1人で何もできないダメ人間にしていくおにーさんに、甘え続ける俺は本当にダメなやつだなあと思うのに、嬉しくって鏡に映る自分はニコニコ笑っていた。
ゆっくり浸かって、1週間の疲れを落とす。本当に疲れたなあ。来週はかなり忙しくなりそうだけど、再来週から年末までは多分落ち着く。
毎日経過を取っていることは今の分取り終わったら年始までやらないし、ほかの研究に関しても同様。部署の先輩達によると、年末だけは毎年定時で帰れる奇跡週間らしい(ぜひこれが当たり前になって欲しい。せめて残業代をください)。
こんなこと考えているとかなり浸かっていたようで、おにーさんに起きてるか?と聞かれてうん!と答えてお風呂から上がった。お風呂ではたぶん、多分寝ない。
お風呂から上がってリビングに行き、おにーさんにぎゅうっと抱きついてお礼を言う。あのままじゃ俺、のぼせるまで(のぼせても)浸かったままだったと思う。
「抱きついてないでなんか飲め」
「おにーさん何飲んでるの?」
「コーヒー」
「夜に良く飲めるね。お茶取ってくる」
手近にあったおにーさんの飲み物を貰おうかと思ったのに夜には飲みたくないコーヒーだった。おにーさんの飲むコーヒーは俺好みの甘いものじゃないから夜じゃなくても飲みたくないけど。
お風呂に行くおにーさんを見送って、ゴロンとソファに転がる。スマホでおにーさんの誕生日ケーキを調べて待つ。クリスマスがイチゴショートだから、チョコケーキにしようかなあ。それともチーズケーキ?
ケーキも当然悩むけど、1番の問題はお名前プレートだよね。おにーさん?夏目さん?穂高さん?おにーさんの名前は知ってるけど、呼んだことなんてない。おにーさんも別に何も言わないからこのままでいいかなあと思ってるんだけどお名前プレートにおにーさんって描くのは、ちょっと違う。
またもうんうんと考えるうちにおにーさんがお風呂から上がっていて、お名前プレートの見本を表示していた俺のスマホを見てそれはいらねえと前もって釘を刺されたのだった。
「俺が買うのにぃ」
「そこまで誰が連れて行くと思ってんだよ」
「おにーさん。でも例えば夏目さんって入れてたって俺はおにーさんって呼ぶからそのケーキがおにーさん用だって店員さんは気づかないよ?」
「それでも嫌」
ええーとおにーさんを見上げれば本当に嫌そうな顔をしたおにーさんが居て、諦めるしかないなとお名前プレートを見るのをやめてケーキの画面に戻った。
そのあとはおにーさんは特にリクエストをすることもなかったから、チョコケーキでもチーズケーキでも問題ないらしい。どっちにするかは予約しに行った日の俺の気分に任せることに決めた。
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