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90.おにーさんサイド

毎年のように元日、つまり俺の誕生日に早朝から来る2人は今年も当然のようにやってきた。名目上は俺のお祝いのはずが、毎年俺に何かを買わせてるから目的はこっちだと思う。何だかんだきょうだい仲は悪くないし、年に一度くらいならと目を瞑っている。 残りの休暇は初詣に行く以外は大した用事もなく、のんびりと過ごした。 明日からついに仕事が始まる。年末年始は誠に構いっきりで俺自身楽しんでいたから終わらなきゃ良いのにと思ってたけど、誠を見ると俺の思いなんて甘かった。 「ゔぅっ、じごどいぎだぐなぁい」 「鼻水を付けるな」 「ゔぅっ、やだ、年末に戻るゔ」 風呂上がりにも関わらず涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を俺に押し付けてくる。服が濡れて冷たいし、それでもこいつは泣き止まない。行きたくないとごねまくる。 「明日、何食いたい?」 「ふ、え?」 「頑張ってくるいい子のリクエストなら聞いてやる」 「ゔぅっ、ばんばぁぐ」 「ハンバーグな。エビフライも付けとくか?」 「ゔん!ぜっだい!」 「はいはい。頑張ってこい。ちゃんと飯作って待ってるから」 「ゔんゔん、おにーざんだいずぎっ」 こいつにはある意味連休なんてない方がいいなと思いながら宥めているとそのまま寝たらしく寝室に運んで寝かせた。静かになったリビングに戻るとどこか広く感じて、俺にとってもここに誠がいるのが当たり前になってるいるんだと感じた。 新年のはじまというのは大体において忙しい。 それは俺にも当てはまる。ほとんどを定時で帰れる俺だけど、正月明けは少し残業もある。そうは言っても7時過ぎには家に帰れるから可愛いもんだ。 行きたくないと泣いていた誠は、残念なことに正月明け早々から午前帰宅だった。 金曜の今日、俺の方は休み中に溜まった仕事も捌き終わり定時帰れるようになったけど誠は夜の11時現在未だに帰ってこない。本当に清々しいくらいブラックだ。 翌日仕事があるなら待たないけど、今日くらいは待ってやろうと思っているけどそれにしても遅い。帰ってきたのはそれから1時間半が経過した0時半過ぎだった。 「ただいまぁ」 「おかえり」 「え?おにーさん?」 「金曜だからな」 「まだ、金曜日かあ。明日も仕事かあ…………ゔぅっ、もぉやだあ。俺なんか悪いことした?」 ずずっと鼻をすすりながら俺に抱き付いて弱音を吐く。 こいつの場合当然のように土曜日も仕事。それで給料は俺の半分も無いんだから終わってるなと思う。 「おにーざん」 「ん?」 「おれぇ、インフルエンザになりたい」 「……………」 インフルエンザも相当辛いだろうに、そんなバカなことを言う誠の頭を撫でた。と言うか、インフルになったところでお前だと仕事が溜まるだけで根本的な解決にはならないだろと言う言葉は飲み込んだ。 「おにーさん、俺来週の金曜だった」 「なにが?」 「………新年会。行きたくないなあ」 「行くためにまた残業か?」 「ふえっ、いわ、いわなっ、いで」 引っ込んでたはずの涙がまたボロボロ落ちてきた。やっぱり行くために残業が増える予定らしい。 帰ってきてから泣き止むことなく眠りについた誠。元から細い誠がさらに細くなったように見えた。こいつのことだから食う暇惜しんで仕事をしてるんだろうな。行きたくないと泣きながらでも、自分の仕事はきちんとやっているらしい誠。お疲れ様と頭を撫でれば険しかった寝顔がほんの少し緩んでいた。

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