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年始の忙しさにやられて少し痩せたらしい俺。 おにーさんは本当に心配しているらしく、おにーさんらしくない優しくてソフトなエッチだった。もっとわかりやすく言うと、おにーさんが楽しむためだけにいじめられることがなかった。 そんなエッチをすることはほとんどなくて、もちろん体も満たされたけど、何よりその優しいエッチは心がすごくお腹いっぱいになった。体はもう少し焦らされて、もっともっと欲しくなるまで我慢した方が、気持ちいい。おにーさんは空イキさせることも、不必要?に俺をいかせることもなく、俺の負担を減らすようにしてくれたんだと思う。 情事後に気持ちいいけど物足りねえって呟いたおにーさんに、俺も物足りないと思ったのは俺だけの秘密だ。 翌日からおにぎりを持って仕事に行くと、目敏い鈴木さんに手作り?彼女出来たの?なんて食い付かれた。 野田さんや内村さんは自分たちは結婚してるのに、彼女作る暇なんてよくあるねなんて言う。本当にそれ。野田さんも内村さんもこの激務でよく奥さんと結婚できたなあと感心する。 「そんな暇あるなら寝たいです」 「自分で作ったの?」 「………そうでもないんですけど」 「ならやっぱり彼女?」 「彼女ではないです」 どうやっても彼女ではない。 夕方のちょっとした休憩、食べることはできたけどあんまり休んだ気はしないものだった。 それでも技術部のメンバーは他の社員が帰った後も身を粉にして働き、行きたくもない新年会のために日々残業を続けた。 金曜日の新年会。無理矢理定時に仕事を終わらせ、他の社員とともに会場となるお店へと向かう。少しハイクオリティな居酒屋らしく、店の外観も落ち着いた雰囲気でオシャレだった。 「今日貸切なんですね」 「この人数だから毎年どこかを貸切かな。二次会は移動するけど、伊藤くんはどうする?」 「行きません」 「だよね、私も。なんなら新年会も行きたくない」 「俺もです」 鈴木さんとそんな話していると俺もって声が更に二つ続き、そこには目の下にクマを作った野田さんと内村さんがいた。毎日会ってるはずなのに、仕事用の服じゃなく私服ってだけで雰囲気が違った。そう思うのは俺だけじゃないみたいで、みんなして新鮮だと言い合い少し、ほんの少し空気が明るくなった。 続々と人が集まり、時間が来たところで店内に入る。席は自由だから、俺は隅っこのアルコール弱い人用の席に着いた。 「伊藤くん飲まないの?」 「飲まない」 「ビール好きじゃなかった?」 「それでも飲まない」 同期に声をかけられても俺は飲まないと答え、その席を譲らなかった。 アルコールに関することでされたお仕置きを忘れない。 まだおちんちんを縛られて空イキさせられるくらいならいい。気持ち良さが辛いけど、だけどおにーさんに触れて貰えるし触れられる。出せないのは辛いけど結局は気持ちいい。 だけどうっかり抱き上げられる(運ばれる)なんてことは絶対にもうしない。新年会の後は2連休にしてるのに、おにーさんに触れれない休みなんて休みじゃない。 俺がどうしようもなくバカなことを考えてる間に社長が乾杯の音頭を取っていたようで、気づけばかんぱーい!とグラスが合わさる音がして、慌てて俺もグラスをあげて新年会が始まった。 アルコールに弱い人ばかり集まった俺の席。それなのに雰囲気に負けて飲む人ばかりで、1時間も経つ頃にはみんな机の上に伏して寝ていた。唯一起きてる俺は最初からアルコールなんか飲まずにカルピスしか飲んでいなかった。 会が進むと、やっぱり仲のいい人同士が集まるようになり、俺の周りには寝てる人か同期しか居なくなっていた。 女の子の同期はまた別の場所で固まっていて、女子は女子だけで楽しそうに飲んでお話ししている。 「伊藤くん、彼女できたってほんと?」 「はい?」 「鈴木さんから聞いた!毎日お弁当持ってきてるって」 ジロリと遠くにいる鈴木さんを見ると、顔を真っ赤にしてそれでもお酒を煽っていた。だめだ、あれは今怒ったって何にも分からないくらい頭働いてないやつだ。 「彼女はいないって。作る暇あると思う?」 「実際伊藤くんにそんな暇ないよな。俺でも週1くらいしか会わないし」 「俺なんて週1しか休めないのにそこにデートなんて詰め込んだら死ぬ」 「だよなあ。伊藤くん激務だし」 「…………辞めたい」 「せっかくの場なんだから暗くすんなよ?」 小さく努力すると答えたけど、難しい。 彼女がいるのは今話していた竹本くんくらい。大学の時からの付き合いで、向こうも同い年だから2人して社会人になったけど喧嘩をしつつきちんと続いてる。 喧嘩(一方的なものを含む)をして別れたのが俺ともう1人。 入社した時から彼女がいないのが阿川くんともう2人。 「阿川くんは好きな人いるんだよね」 初耳ー……ってあれ? ミホちゃんは? 阿川くんとミホちゃんくっつけたいわけでもないし、ミホちゃんはうざいって言ってたし、どうなったっていいんだけど。 「ミホちゃんだっけ?どんな子?」 「ふお!?へっ!?ミホちゃん!?あのミホちゃん!?」 竹本くんが阿川くんにどんな子、って尋ねるけどミホちゃん!?ミホちゃんなの? 驚く俺に知ってんの?と竹本くんや他の同期が俺を見る。 「あのミホちゃん」 「本気で?」 「うん。付き合ってって言ったらふざけるなありえないって言われたけど」 ああ、だろうねと頷く俺と、脈なしじゃん!とゲラゲラ笑う同期たち。ミホちゃんは誰かに縛られるつもりはないって言ってるし、エッチだって2度目はしない。 俺と何度も会ったり、たまに連絡を取ったりしてくれるのは俺とはそういう関係にならないっていう安心がミホちゃんの中にあるからだと思う。

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