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「何してんの?うるさいんだけど」 「………ごめ「ミホちゃん!」 阿川くん、ミホちゃんの空気読んで。 どう見ても不機嫌だから。なんでこのミホちゃんを前に尻尾振る犬みたいになってんの。喜ぶところじゃないから。 「チッ。俺、誠くんに店教えたっけ?」 「阿川くんが調べたって言ってた」 「ああ?」 「ちょっと!怒りはあっちに向けて!」 「うるさい」 「痛ッ!痛い!」 「デコピンくらいでうるさい」 理不尽!暴力!ううっ、痛い。普通に痛い! 俺から視線を阿川くんに移したミホちゃんはため息ひとつ付いてまた俺を見た。 このため息のつき方も、おにーさんによく似てるなあ。 「はあ、誠くん。食べた後だろうけど付き合って」 「えええ、どこ行くの。ってか阿川くんは?」 「相手するから付け上がるんだろ。すっげぇ八つ当たりしたいけど誠くんで我慢する」 「それ我慢してないよね!?俺が意味もなく被害にあってるって分かってる?」 「意味はあるだろ。俺がちょっとでもスッキリする」 全然意味ないし!しかもミホちゃん!最後にボソッとやり足んねえけどって聞こえてるから!完全に俺がやられ損じゃん! 「誠くんは後から思う存分甘えればいいだろ。俺は今しか八つ当たり相手いないの」 「それが俺!?」 「そう」 「やだあ!」 そりゃあもちろん後でおにーさんに泣きつくけども!それはそれは思いっきり甘やかしてもらうけれども! だからってミホちゃんの八つ当たりはやだよぉ。 今度はミホちゃんに引っ張られて歩く俺。阿川くんが俺も行くと後から付いてくるけど、ミホちゃんは聞こえていないようにスタスタと歩く。 この2人の関係が全然分かんない。 阿川くんはそのまま普通についてくるし、ミホちゃんは完全無視。話しかけられるほどにミホちゃんの舌打ちが増えて、隣からは黒くて重たい嫌な空気が流れてきている気がする。 ミホちゃんは駅近くの居酒屋に入り、阿川くんをまるっと無視して定員さんに2人と答えていた。 「阿川くん、いいの?」 「ああ?どうせ外にいるんだろ。ほっとけ」 「告白されたってほんと?」 「ぶっ、ゴホッ、っ、は?」 「阿川くんが言ってた。振られたとも聞いたけど」 あいつ、とミホちゃんの纏うものが一層黒くなった。 「飼うにしてもあいつはダメだな。駄犬過ぎる」 「ミホちゃんにいたぶられててもミホちゃんのこと好きなのに?」 「俺がそれを求めてないから」 「その辺はおにーさんと全然違うね」 まあなって認めたミホちゃんはビールとおつまみをいくつか頼み、俺になんかいる?と聞いてくれる。うぐぐっと耐えて、ウーロン茶を頼んだ。 「何食べたかったの?」 「今日新年会でも飲むの我慢したのに……またビールの誘惑があ」 辛い。弱いのは認めてるけど大好きなんだもん。苦いのは嫌いなはずなのに、ビールの苦味はクセになっててあの喉越しがたまんない。 「飲めば?」 「やだ」 「なんで?」 「俺、弱いの」 「ああ、そういうこと?飲んでなんかやらかした?」 コクリと頷くとなら兄貴呼べは?ついでに車出してもらって俺も送って貰うしなんてことを言い出す。違うんだよ、おにーさんと飲むのもダメなんだよ。だって俺バカだからムラムラするもん。それなのに俺の体はバカすぎて勃たないし、挙句いったら寝始める。翌日のお仕置き待ったなしだ。 「おにーさんがいる方が辛い」 「はあ?」 「………おにーさんにムラムラするもん」 「あっははっ、誠くん素直だな」 「なのに俺の体がバカすぎて話になんない」 「?」 「…………気持ちよくても勃たないし、寝落ちするとか終わってる」 ボソッと言ったはずなのにちゃんと聞こえたらしく、ミホちゃんは机をバンバン叩いて笑っている。 ミホちゃんはおにーさんと俺の関係を知って、わざわざ隠すようなことでもない。俺がどんなことされてるかくらい、多分分かってるだろうし。 ミホちゃんが笑いから立ち直る前に飲み物が来て、店員さんは笑い転げるミホちゃんを見てこの人がアルコール?みたいな目で見ていた。 「あーダメだ。誠くんも飲もうよ」 「やだ。俺がお仕置きされるの分かってて楽しんでるでしょ」 「バレた?」 「バレるよ!」 楽しそうにきたばかりのビールを煽るミホちゃん。 眺めていると飲む?とニンマリ笑って聞いてくる。冷えててマジうまいって、そんなの見るだけでわかるからあんまり言わないで欲しい。

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