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飲まない俺はミホちゃんが頼んだおつまみをちょっと食べながら、ビールを煽るミホちゃんを眺める。 「なに?」 「阿川くんのこと、どうするの?」 「あんな駄犬、ペットでもいらない」 「もしかしてミホちゃん、1人の相手に執着しないようにしてる?」 「………」 無言で黙ったミホちゃんに図星だと悟る。 確信があったわけじゃない。だけどよく似てるこのきょうだいだ。おにーさんは飼った俺に対して独占欲も執着も露わにしてるのに、ミホちゃんは縛るのも縛られるのもごめんと言って寂しそうだった。もしかして、本当は縛りたいし執着もしたいけど、しないように線引きをしてるのかなあって。 「ムカつく」 「え?痛っ!ちょ!弁慶!っ、痛い!」 ボソッと呟いた後、ミホちゃんの足が俺の脛を直撃する。 ゲジゲジと何度もテーブルの下で蹴られ、お行儀が悪いと分かっていたけど椅子に正座して座り直した。 「暴力反対!」 「うるさい。ほんとムカつく」 「なにが!?」 「意外と頭いいって兄貴が言ってたけど、マジで意外と頭いいじゃん」 えっへん!と言いたいところだけどそんなことしたら今度はどんな攻撃をされるかわからないので黙ってミホちゃんを見る。 「誠くんさー、今兄貴に捨てられたらどうする?」 「え……?」 今おにーさんに捨てられたら………? どうしよう。え?えっと、灰になりたい。 無理だもん、いろんな意味で生活できない。 ヤダヤダ、そんなのやだ無理。飼い殺すって言ったじゃん。 「嫌だよなぁ。あんだけ甘やかされて」 「…………おにーさん、俺のこといらないって」 うっ、無理っ、やだぁあ。 なんで、なんで捨てるの。俺いい子じゃなかった?悪いことした? 仮定の話だって!と泣きそうな俺をフォローするミホちゃんの声にハッとして、なんとか自分を取り戻す。 「俺はもう無理」 「へ?」 「………すっげぇ好きな人がいて、傷付けたくなかった」 ミホちゃんはそのまま静かに続けた。 すごく好きな人ができて、付き合うことができた。当時でもさでぃすてぃっくなところはあったらしいけど、それを抑え付けてでもその人と居たかったらしい。すごいいい子だったよなんて自虐混じりに笑ったミホちゃんは、無表情になってポツリと言った。 「そんで、つまんないってさ」 「え?」 「なんなんだろうなあ」 今でも腹が立つのか、ミホちゃんは一気にビールを飲み干して続ける。 「それまで我慢してたのがバカらしくなって、初めて好きなだけいたぶった。最高だった。すっげぇ興奮した」 「…………ミホちゃん、我慢した分さでぃすてぃっくが爆発したんだね」 「だな。それは認める。結構えげつないことしたはずなんだけどさ、なんでかそれにハマってまたやってくれなんて言い出して。バカみたいだろ?俺の我慢はなんだったんだよ」 ミホちゃん、本当に優しいんだなあ。 知ってたけど、知ってた以上に優しい。 エッチなことをするのに性癖を隠すって多分辛い。俺が痩せたからってソフトなエッチをしたおにーさんは物足りないって言ってた。ミホちゃんだってきっと物足りなさを感じてたけど、それでも好きな人のために我慢をした。その我慢が全く相手に伝わってなくて、すごく悲しい結果になってしまったけれど。 「それから。深く付き合うのは嫌になった。俺がいらなくなっても、相手がいらなくなってもどっちかはあんな思いするんじゃん。なら1回で終わらせた方がいい」 「ふふっ」 「何笑ってんの」 「ミホちゃん、ほんとに優しいなあと思って」 俺の緩んだ顔にイラっとしたのか舌打ちが聞こえたけど俺は笑顔のままだと思う。ミホちゃんは、縛ることも縛られることもしないけど、不必要に傷つけることも避ける。分かりづらい、ミホちゃんの優しさだなあと思う。 「それなら遊ばなかったらいいのに」 「それが1番なんだけどな。1回あの興奮知ったら無理」 それは、分かりたくないけど分かる。 俺が今女の子とエッチ出来るかどうかも微妙。エッチ出来たとしても、満足いくものかどうかと問われるとエッチする前から満足はしないと言い切れる。 人は一度知った快感を、そう簡単に忘れないものらしい。

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