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新年会の翌日。 睡眠不足続きでまたしても昼近くに起きた俺は、起きて早々体重計に乗せられる。休みの日の日課にでもするつもりかなあ。 「50.5。いい感じだな」 「おにーさん、ほんとに俺のこと管理してるね」 「当たり前だろ」 夕方の補食のおかげなのか、仕事の忙しさはそう変わらなかったはずなのに体重は少し増えていた。 それでも元あった51より痩せてるし、もっと言えば入社前よりはるかに痩せてるけど健康上の問題は今のところ感じない。 「おにーさん、今日はエッチしようね」 「はい?」 「そんで、いっぱい意地悪してね」 「ぶぶっ」 洗面所からリビングに移動しながらおにーさんにおねだりすると、おにーさんは俺をじっと見てため息をつく。 「ずいぶんバカになったな」 「おにーさんのせいだもん」 「体重戻ってねえだろ」 「戻ってきてるしいーじゃん」 「…………意地悪ってなんでもいいわけ?」 「へ?」 あれ、これは嫌な予感。 ちょっと待って、おねだりするなら何してって言えばよかった。意地悪なんて曖昧な言い方したからおにーさんの好きなように捉えられてしまった。 じっとおにーさんが俺を見てるのを感じて、逆らえない俺は黙ってコクリと頷いていた。いい子って俺を撫でたおにーさんに、ゾクゾクと這い上がるなにかを感じた。 朝兼お昼ご飯を食べて、おにーさんが淹れてくれたカフェオレを飲んでホッと一息つく。昨日はただおにーさんが恋しくって甘えただけで寝ちゃったから、いっぱい話したいことがあった。 「俺ね、はみごにされてた」 「?」 「同期はたまに集まって飲むんだって……。俺、残業ばっかりだからって気を遣って誘われなかったのも分かるんだけど、寂しい」 「ほんと残業ばっかだもんな」 「まだ続くよお」 自分で言って悲しくなって机に伏せる。 1月下旬に予定していた出張は2月初めになったけど、そのための残業がこれから始まる。 出張から帰ってきたら今度はデータや精度を出して、製品化できそうなら製品化する。そんでもってこれは技術的に特許申請もできそうなものだからそれの準備にも関わらなきゃいけないし、暇になる予定は今のところ、ない。 「あとね、昨日ミホちゃんに会ったよ」 「穂積?」 「うん、阿川くんがミホちゃんのストーカーになってた」 「………しつこい奴だな」 「ほんとにね。ミホちゃん、大丈夫かなあ」 阿川くんとミホちゃんじゃミホちゃんの方が少し背が低いし、体も細い。阿川くんがそんな無茶苦茶するとは考えづらいけど、ストーカーっぽいから気をつけるに越したことはないと思う。 「穂積なら大丈夫だろ」 「?」 「空手やってて有段者だし、成人してからはキックボクシングとかやってたはずだぞ」 ほんとに? それは強そう。というか、そんな人に俺昨日足蹴られてたんだ。普通に痛かったけど、多分あれでも手加減してくれたんだろうな……。 昨日ミホちゃんと話してたことを、おにーさんに言ってもいいのかはすごく悩んだ。きょうだいだからって、何でもかんでも知ってるわけじゃない。知ってても知らないふりして上手くやってることだってあるし、きっと言うべきじゃないと思って何も言わなかった。 「おにーさんって……」 「なんだ?」 「忘れられない恋とか、あった?」 ミホちゃんのことを言わないにしても、ミホちゃんと話したこの話題は少し気になる。おにーさんにそんな人がいたのかなあって、今も引きずってるなら、俺どうしたらいいんだろ。聞いてみたところで自分の身の振りだって分かんないのに、気になって仕方なかった。 「ない」 「そっ、かあ」 「なに笑ってんだよ」 「おにーさんに忘れられない人がいたら、俺複雑」 「なんでだよ」 「だって、だっておにーさんは俺だけのことを飼って、管理してたらいーもん」 ちょっと拗ねたように言うけど、間違いなく俺の本音。 おにーさんはふっと笑ってるけど、その顔は嬉しそうに綻んでいるから俺がそう思ってもおにーさんにとってそう大きな問題ではないらしい。 「自分の性癖くらい自覚はあったし、俺は我慢なんて無理。それなら最初からそういう相手探した方が楽だろ」 「まぞひすてぃっくな人ってこと?」 「そう。最初から割り切った方が楽だった」 「ふぅん。なら何で俺を飼うなんてことになったの?」 「大方気まぐれ。あと、誠が泣いて縋ってんのは好き」 …………言わないよ。言ったらお仕置きされるって分かってるから言わないよ?けど思うくらいいいはず。ほんと、本当に性格が悪い。むっと睨んでもおにーさんは楽しそうに笑うだけで、何の効果もなかった。それどころか、好きっつってんだよって笑って言われると、俺は真っ赤になって、ぷしゅうと空気の抜けた風船のように身を縮こまるだけだった。

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