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103.

出張に向けて忙しい日を過ごし、やっとそれが終わった。 忙しいと言っても、出張関係以外のことを振られることがなかったから毎日10時過ぎに帰宅できていたし、なかなかいい感じじゃない?とおにーさんに胸を張って言えば、そもそも感覚がおかしいと言われた。 データを取りたい製品は全て研究室に送っておいたし、小さなものや資料なんかは俺が持ち帰り、俺が持っていくことになっている。忘れ物がないことを確認し、最後の戸締りまでして会社を後にした。 そうして家に帰ると玄関に見慣れないものがあるし、リビングにも見慣れないものがあった。 「ただいま?」 「おかえり」 「おにーさん、玄関のスーツケースどぉしたの?」 「お前の荷物。実家になんもねえんだろ?」 「用意してくれたの?」 「お前が全然しないからな」 「ありがとっ!」 「うわっ、飛びつくな」 おにーさんが用意してくれたなら俺が確認しなくても大丈夫。絶対に必要なものが入ってるって言い切れる。 3泊分で用意してるから洗濯はしてもらえよ、だったり歯ブラシは新しいの持って行ってそのまま捨ててこいだったり、細かいことも言われたけどその辺はなんとかなるから聞き流してグリグリとおにーさんに甘えた。 次にあっちは?と机に乗る段ボールを見て尋ねる。俺はここ最近ネットで買い物した記憶もないし、おにーさんのものならすぐに開けて段ボールとかのゴミを纏めるはずなのにそのままって変だなあって感じがする。 「あれお前の」 「?俺買い物した覚えないよ?」 「開ければ分かる」 不思議に思って手を伸ばしてみる。 そんなに大きくなくて、中身は軽い。開けて中身を確認して、パタンと閉じた。 「おにーさん」 「ん?」 「出張から、帰ってきてからにして……」 「いいよ」 中身は、俺のものというよりは俺に使うものだ。間違っても俺のものではない。 綿棒くらいの細さで、つるんとした質感、そして先端だけ括れた形状。細いものにしてと、おねだりした結果がこれらしい。細さや質感はいいとして、この先端の括れは、要らなかったと心の中でぼやいた。 その夜から出張に行くまでは甘え倒そうと思っていたけど、それは俺だけじゃなくておにーさんもだったらしい。俺のこともいつも甘やかしてるのに、いつも以上に甘やかしてくれた。普段ならお風呂は1人で入れって言われるのに入れてくれたし、いつも1つだけだぞと言われるおやつも2つ買ってくれた。 出張前日には俺が出張に行きたくない、おにーさんシックになるとごねて少し困らせたくらいだった。 それでも、俺はおにーさんの用意してくれた荷物と、職場から持ち帰った荷物を持って玄関に立った。 「そういえば、なんで日曜に帰るんだよ」 「姪っ子にお年玉ねだられた」 「?もう2月になるぞ」 「お年玉は年中無休で受け付けてるって、メッセージ来た」 年明けすぐに来たメッセージの内容は、あけましておめでとう、帰ってこなかったんだね。お年玉は年中無休で受け付けてるから帰ってくるの待ってるねって感じだった。つまり、帰ってきた時にちゃんとお年玉をくれって言っているわけだ。 そうなると1人だけに渡すわけにも行かず、仕方なく全員の家を回って渡すために日曜に帰ることにした。平日にそんな時間取れるかも分かんないし。 「8人だっけ」 「うん。ちょっと残業少なかったなあって時の俺の手取りの半分だよ。半分」 「…………」 「俺の給料が安いのか、姪っ子が多いのかどっちなんだろ」 「気にせず行って来い。地元久しぶりだろ」 「うん」 最後の最後って思ってぎゅうっとおにーさんに抱きつく。俺の耳元に顔を寄せたおにーさんが尻尾振ってきたら許さないと言った。向けられるそれが嬉しくって、頷いて強く抱きしめ直した。 甘えるほどに行きたくなくなってきたけど、これ以上はダメだと叱咤して玄関を出た。 たった1週間のはずなのに、行くその瞬間から長いなあとため息が溢れていた。

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