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111.おにーさんサイド

誠を飼い始めてから誠が1週間も家を空けるのは初めてだった。いつも朝の7時頃には居なくなり、夜の9時を過ぎても帰ってこない。 年明けはかなりの忙しさで俺が起きてる時間に帰ってこないことも多々あったから別に大したことないだろうと思っていた。 どぉせ寂しいのは俺だけだもん 拗ねた口調で言った誠。俺も寂しいけど?なんて軽く言ったけど、これは間違いなく俺の本音だ。 誠が出張に行き、1人で座るソファがこんなにも広かったのかと思った。いつも足元でゲームをしている誠のああ死ぬっ!って叫び声がないだけでこんなにも静かなのかと思った。自分の背丈に合わせて買ったはずの広めのベッドはこんなにも広かったのかと思った。 いつからかここは誠が帰ってくる家で、誠が過ごしているのが当たり前になっていた。 当たり前がなくなると言うのは、どうしようもなく寂しいものだった。いつも甘えてくる誠が居ないと楽だなんて思うことは全くなく、それどころかその存在がいないせいで狂うことばかりだ。 癖で2人分用意する飯、広々と寝たらいいのについ片方によって寝るベッド、朝起きても隣にない温もり。 その全てに調子が狂いっぱなしだった。 帰ってくると言った誠はトラブルがあったらしく言っていたより1時間ほど遅く帰ってきた。ガチャっと玄関が開く音がして、出迎えるかと立ち上がった時にはリビングの扉から誠が入ってきた。 「ただいまっ!」 「っ、お前なあ」 「ただいまっ」 「ったく。おかえり」 「もっと、もっとぎゅうってして」 「はいはい」 体ひとつで飛び込んできた誠は俺に飛びついてきたまま離れない。グリグリと顔を擦り付けて、もっとぎゅうってしてを何度も繰り返した。 「んんっ、おにーさん」 「ん?」 「ちゅー、ちゅーもして」 「ふっ、いいよ」 自分だけ寂しかったって思ってるのかも知んねえけど、お前が居ないって本当に寂しいもんなんだぞ。 いつも甘えてくるそれが心地よくて、もっと俺だけに甘えればいい。そうやってどんどん離れられなくなればいい。 何度キスしても足りないと、もっとと唇を噛んでねだる誠は可愛かったけど、こいつにはちゃんと食わさないといけない。いくら細身が好きと言っても、こいつはこれ以上痩せる必要はない。 「うわぁ、おにーさんのご飯だあ!いただきます!」 飯を食うようになんとか宥め、誠の前に並べる。パチンと手を合わせて食べ始める誠。食べながら話してくれる誠のお母さんの料理は独特で、カレーにステーキが乗っていたり、お好み焼きに餃子が入っていたらしい。考えられない組み合わせに味の想像もしたくない俺とは別に、食べてきた誠は案外いけたなんてケロッと言ってるからこいつは体だけじゃなくて舌もバカだなと思った。 「ふあぁ、美味しかったぁ」 「腹一杯?」 「ん。もお入んない」 「冷蔵庫にプリンあるけど」 え!?とすぐさま立ち上がって冷蔵庫を見に行く誠。いくら仕事が早く終わっていたと言ってもいつもと違う環境に疲れただろうなと、甘やかそうと買ってしまったもの。 「プリンだぁ!食べていいの?」 「ああ」 「やったあ!ありがとう!おにーさん大好き!」 ほんと、こいつの好きは軽いな。別にいいんだけど。 プリンを立ち食いしようとする誠を注意して、いーじゃん!と言いながらも椅子に座る誠を見てこれがこの家だなあとしみじみ感じる。 静かな方が好きなはずで、こいつがいると騒がしくって仕方ないのに、落ち着く。これが俺の今の生活で、こいつがいて初めてこの家に帰ってきたって気がする。 「おにーさん、もぉお風呂入った?」 「ああ」 「…………お風呂、入れて?」 のぼせたこともあるから避けたいけど、今は俺の方がこの誘惑に勝てない。甘えたくて仕方ない誠と、甘やかしたくて仕方ない俺。 数時間前に入ったはずの風呂に、また入っていた。

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