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俺、なんでこんなストーカーみたいなことやってんだろ。
社畜が入るには敷居の高いオシャレなお店、その中に違和感なく溶け込むミホちゃん。やっぱり店の中にいる時っていつもと全然違う顔をしている。元から柔和な顔をさらに柔らかくして笑っている。中に入ったことはないから分からないけど、きっと話し方だっていつもとは違うんだろうな。おにーさんもミホちゃんもちょっと話し方は雑と言うか、荒いと言うかそんなところがあるけど多分きっと働いてる時は切り替えてる。仕事モードにキリッとしたおにーさんも見てみたいなぁなんて場違いなことを考えた。
「うわ、また居るし」
「ミホちゃんお疲れ様」
「また誠くん連れてきてんの?」
「ミホちゃん、伊藤くん居ると止まってくれるから」
「俺のことミホちゃんホイホイにしないで!」
「チッ」
うわあ!舌打ちもそっくり!
「で、何?」
「ビールバーに行こうと思って」
「嫌」
「なんで!?」
「チョコもくれない駄犬に付き合うほど暇じゃない」
「はいチョコ!」
ばっとチョコを差し出す阿川くんと、俺を睨むミホちゃん。なんでそこで俺を睨むの!
ううっと顔を逸らすとミホちゃんははぁとため息をついた。それに顔を上げると、やっぱり見慣れたそれとよく似た呆れた顔がある。
「何笑ってんの」
「ふふっ、やっぱりそっくり。ミホちゃんの優しさの方が分かりにくいけどね」
「ったく。誠くんは?今日は飲める?」
「飲まない。ビールは大好きだけどやだ飲まない」
「ほんとなにやらかしたの」
それは言いたくないから黙る。
ミホちゃんはもう諦めたのか、どこ?と阿川くんに聞いている。俺帰ってもいい?と聞けば誠くんが帰るなら俺も帰るとミホちゃんが言ったせいで、またしても阿川くんに引きずられるように連れ去られた。
ミホちゃんのお店のあるあたりは全体的にオシャレなお店が多い。ビールバーは少し離れたところにあるけど、ビールバーだけじゃなくてワインの飲み比べができるお店もあるらしい。
「はぁ、家に帰りたい」
「俺も」
「ミホちゃん!?」
「仕方ねえだろ、お前と深く関わるつもりはないんだから」
「それでも俺はミホちゃんと仲良くしたい。なんで伊藤くんとは仲良くするの?」
「お前に言う必要ある?誠くんのことはつまみ食いしたいけどな」
「やめて!ミホちゃんは絶対痛い!」
そりゃおにーさんだって痛いことはするけど、ミホちゃんのそれとはレベルが違う。俺は縛るとか鞭とかやだもん。………あれ?それなら阿川くんってどえむなのかな。それかミホちゃんのせいでそっちに目覚めちゃったとか?
ミホちゃんに阿川くんってどえむなの?って聞けばそうとしか思えないって返事が返ってきて、一体ミホちゃんは何をしてるんだろうと思った。
「ミホちゃんって甘いもの好き?」
「………まあ並」
「じゃあ好きな食べ物は?」
「肉」
「今度は焼肉に誘ってもいい?」
「嫌」
阿川くんのミホちゃんリサーチ?が行われていて、俺はただそれを眺める。見てるのは人じゃなくてその手に持つビールだけど。俺の好物が目の前どころかてんないのいたるところにあるのに、俺が飲めないなんておかしい。
その手に持つビールを睨みつけていると、ニンマリ笑ったミホちゃんがビールに口を付けた。ぐびぐびと勢いよくミホちゃんの体内にビールが飲み込まれていく。
「あー、うまい」
「うぅっ、ミホちゃんほんと性格悪い!」
「だってうまいんだもん。こんな色んなビールあるって最高っ」
語尾にハートマークが付いつそうなくらい笑顔だ。俺が飲めない(飲まない)のも知ってて言ってくるんだからほんと、性格が悪い。
「呼べば?」
「それもダメだって言ったじゃん。それなら缶ビール買って………いや、それも無理だなぁ。はぁ、禁酒つらい」
「別に飲んだって怒られたりしないだろ」
「飲むことは怒られないけど、俺すぐ寝るんだって」
「2人は誰の話してるの?」
「俺の兄貴」
「ああ!伊藤くんが仲良いって言う人?」
「そうだ「誠くんの飼い主」
何も言わずに頷こうとしたのに、なぜかミホちゃんに訂正された。その訂正でさえも今は正しく無いんだけど。
阿川くんは情報処理が追いついて居ないらしく、キョトンと俺を見ている。そして、出てきた言葉はなんとも聞き覚えのある言葉だった。
「伊藤くん、体だけとかダメだ」
「それ阿川くんに言われたくない」
「俺はいいの。ミホちゃんには何されても良いけど、それは俺がミホちゃんのこと好きだからだし」
「ミホちゃん、さりげなく告白されてるよ」
「全然さり気なくねえよ」
それもそうか。
ミホちゃんは辛そうでもなく、悲しそうでもなく、本当に淡々と聞き流して終わる。その心がどう思ってるのかは残念ながら読み取れそうになかった。
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