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不思議な3人での飲みは意外にも話しは尽きなかった。
俺と阿川くんは同じ職場なのにやってることが全然違うし、ミホちゃんは業界さえ異なるので聞いてて面白い。
ミホちゃんは社内試験が終わったばかりらしく、近いうちに結果が出て、結果次第では来月からお客さんの髪をきれるようになると言っていた。そうなったらもう俺の散髪してくれない?と聞けば、切りに行くと即答してくれた。ミホちゃんが切ってくれないなら貴重な休みにおにーさんとの時間を割いてまで切りに行かなきゃいけないからすごく助かる。
「誠くんは相変わらず社畜やってんの?」
「うん。今日も阿川くんのせいで残業出来なくて、明日に持ち越してる」
「お前、人に迷惑かけてまでくんなよ」
「そうでもしなきゃミホちゃん止まってくれないし」
そう言われるとバツが悪いのか、ふっと目を逸らしたミホちゃん。なんだかんだ優しいミホちゃんだから、回り回って俺の仕事に影響を出したことを気にしてるんだと思う。
「………待ち伏せはやめろ。たまにならちゃんと時間作ってやるから人に迷惑かけんな」
「ほんとに!?」
「たまにだからな」
やったあ!とガッツポーズで喜ぶ阿川くんと、ため息を吐くミホちゃん。ほんのちょっとミホちゃんが歩み寄ったように見えたその瞬間、俺も嬉しくて笑っていた。
そのあと、ミホちゃんと阿川くんはなぜかメッセージアプリの友達登録をしていた。今までどうしてたの?と聞けばミホちゃんはスマホの2台持ちらしく、1台は家族やちゃんとした友達用、1台はそういう、言わばお楽しみを引っ掛ける用だと言った。今まで阿川くんはその引っ掛ける用しか知らなかったらしく、すごく喜んでいた。
明日も仕事ということもあり、そこまで長居することなく帰路に着く。家に帰り、リビングの扉を開けると荷物をぽいっと手放しておにーさんに飛びつく。
「ただいまっ」
「おかえり」
「メッセージ入れるの遅くなかった?」
「ああ、まだ作ってなかったし」
「良かったあ」
俺はご飯を作ってもらう身として、いらなくなった時は必ず連絡すると決めていてる。それも出来るだけ早くに。もし作っちゃってたら余るのは間違いないし、それじゃせっかくの美味しいご飯も勿体ない。
グリグリと抱きついていると、おにーさんがあの荷物は?と俺が放り投げたものを見て聞いてくる。あ、そうだった!しまった!うっかり投げちゃった!慌てて駆け寄って中身を出す。おにーさんにと買ったチョコをはいと差し出せば、扱い雑じゃね?と笑いながら受け取ってくれた。
ごめんなさい、帰ってきたらとりあえずおにーさんにぎゅってしたいの。その時手に持ってるものって邪魔だからつい……。
おにーさんはしどろもどろな俺を置いて、受け取ったチョコを持ってキッチンに入る。そして、冷蔵庫から同じようにラッピングされた箱を出して俺に渡してくれる。
「はい、これ。誠に」
「へっ!?」
「まあ、俺があげなくても山ほど持ってたな」
「今日買いに行って、おに…穂高さんの買うついでにあんまり売ってないチョコ買い占めてきた」
「俺のがついでだろ」
「違うもん」
おにーさんのを選ぶついでに俺のも買ったんだもん。真剣に選んだのはそれだけだもん。
ムッとする俺におにーさんはもう一度ありがとうと言って俺の頭を撫でる。むむ、これでつい流されてしまうから俺は本当にちょろいと思う。
「あのね、それコーヒーに合う少しビターなチョコなんだって。だからコーヒー飲むときに食べてね」
「はいはい。お前のは溶けやすいからすぐ食べないなら冷蔵庫入れておけよ」
今食べてもいい?と聞けばどうぞって言ってくれたからいそいそと開ける。中身はココアパウダーがたっぷりかかった生チョコ。あの柔らかい食感がすごく好きなんだけど、溶けやすいのが難点で、ズボラな俺が買うにはちょっと難易度が高い。
手で掴んでパクッと食べるとがっつり甘い。ビターやらほろ苦なんて言葉からは程遠く、ただただ甘いチョコレート。さすがおにーさん、俺のことをよく分かったチョイスだ。
「俺、貰えると思ってなかった」
「チョコとか好きだろ」
「うん、大好き。おにーさん大好き」
「言い直し」
「……穂高さん、大好き」
いい子ってふんわり笑って、軽くちゅってされ、おにーさんはすぐに顔を顰めた。そしてあっまって自分が買ったチョコに文句を言うけど、今のおにーさんの行動の方がチョコより甘いよ。
多分赤いであろう顔を俯いて隠して、おにーさんにぎゅっと抱きつく。俺のバレンタインは、貰った生チョコ以上に甘ったるい夜を迎えた。
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