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生チョコよりも甘い夜を過ごした翌朝、俺はアラームよりも早く目が覚めた。俺の隣に眠っているはずのおにーさんはもう居なくて、そこはほんのりと暖かい。そっちにころんと転がって、おにーさんの使ってる枕を抱きしめる。 俺がボディソープで頭を洗ってるせいだけど、同じ家で生活してるのにその匂いは少し違う。どっちもそんなに匂いはきつくないから、こうしてぎゅってしなきゃ分からないような匂いだけどこれがおにーさんの匂い。ソープ系の爽やかな匂いのはずなのに、今はこれを甘く感じた。 そのまましばらく過ごすうちにアラームが鳴った。あーあ仕事に行きたくない嫌だ嫌だと枕に顔を埋めて寝転がる。こうして寝転がって1日を過ごしたい。そうやって粘ること数分、おにーさんが俺を起こしに来た。 「ったく、起きてんのかよ」 「仕事行きたくない」 「不登校の学生かよ」 「社畜の社会人だよ」 「社会人っつーなら1人で起きてこい」 厳しい意見をありがとうございます。 昨日の甘ったるいおにーさんはどこに言ったの?メソメソと布団に戻ろうとする俺から布団を奪ったおにーさんは俺を見てニンマリと笑う。なんだろう?と身構えた俺に可愛いことすんのなと俺が手に持つ枕を見て言った。言い訳も思い浮かばず、枕をもみもみと抱き込んで顔を隠す俺に近づいて、そのまま抱き上げてくれる。 「枕あったらキス出来ねえな」 そんな声が降ってきて、おずおずと枕を下げる。口元を隠したまま、目を出した俺が見たのは甘ったるく、だけどちょっと意地悪な目をして笑うおにーさん。そのまま枕を手放した俺は目を閉じてちゅーをねだった。朝っぱらからこんな甘ったるくて良いのかなとか、こんなに深いちゅーしたらバカな俺の体がうっかりむくむくしてたりとか、いろいろあったけど気持ちよくて嬉しくってぎゅっとおにーさんを抱き締めた。 そのままリビングに連れて行ってくれたおにーさんは俺をそっと椅子に下ろしてご飯を並べてくれる。そして全てを並べ終わって俺の前に屈み込んで体は大丈夫か?と聞かれた。 「痛くないか?」 「………乳首が痛い」 「それならいい」 一体何がいいんだろう。俺の乳首はおにーさんに噛まれすぎて週末になればよく腫れる。ぷっくり立っちゃって肌着のような柔らかい素材を着なきゃ痛い時だってあるから全然よくない。ムッと睨んでも全く効果はなくて、なに?とすました顔で聞かれるだけだった。 「見てよ!こんなに真っ赤になって可哀想だと思わないの!?」 「………お前、ほんとバカだな」 「へ?あっ、ちょ!」 おにーさんはどんな状態か知らないんだと思って見せてみたけど完全にやらかした。おにーさんは甘ったるくても意地悪だから、伸びてきた手が俺の乳首をこねこねする。痛い、痛いけど気持ちいい。すっかりおにーさんに躾けられた体にこれはダメっ。 「んンッ、や、めてっ」 「はいはい、分かってるよ。ほら、飯食え」 「ふっ、え?」 「仕事、時間なくなるぞ」 「ッ、意地悪!」 「見せてくるお前が悪い」 うう、そぉなんだけどっ! くうう、素直な体がこんな時に腹立たしい。なんで痛いはずなのに俺のおちんちんはおっきしようとするかなあ、ほんとバカめ。今度はムッと自分の体を睨みつけた。 甘くてちょっと意地悪な朝だったけどそんなおにーさんに見送られて仕事に行った。本当なら昨日やり残した仕事に今日やりたかった仕事があるけど、土曜日だからなんとか定時で終わるようにやる内容を変えよう。土曜日まで残業とか無理。ただでさえサービス出勤なのにさらに残業までサービスしてあげるほど会社に甘やかされていない。 今日は大型部署に詰めよう。平日でもできることだけど、平日はここだって稼働してるから人が多くて気を使う。大型の人はちょっと体育会系なノリが多いけどいい人ばかりで、俺が来ると向こうの方が俺のために場所を開けてくれたりとすごく気を使ってくれるから申し訳ないなあと思う時もある。 「阿川くんおはよう」 「伊藤くんっ!」 「うわっ!待って!俺男に抱きつかれる趣味はない!」 「なんでだよ!」 大型部署の検査室に入るなり、待ち構えていたらしい阿川くんが飛びかかってくる。もちろん避けて、と言うより荷物を差し出して抱きつけないようにして逃げた。 「伊藤くん、」 「話は聞いてはあげるけど、お昼休みにしてね。仕事あるもん」 「分かった!」 すごくいい笑顔で仕事に向かう阿川くん。 俺は昨日サクッと帰ったけど、あのあとミホちゃんとなにか話してたのかなあ。それも多分阿川くんにとって喜ばしい形で話が終わったんだろう。話したくて仕方ない、聞いて欲しくて仕方ないという空気が漏れまくっている。俺はミホちゃんが男だってことも、ミホちゃんの性癖がさでぃすてぃっくだとも知ってるから隠すこともなく話しやすい相手なんだろうなぁとぼんやりと思った。 仕事のキリがいいタイミングで時計を見ると12時少し前といい時間だったから阿川くんにも声をかける。すると待ってましたと言わんばかりに振り向かれて、ちょっと逃げたくなった。 「伊藤くん、お昼は?」 「買ってきてる」 「そっか。俺カップ麺だから食堂行っても良い?」 「いいよ」 土曜日は食堂がやってないから各自用意。うちの会社は技術部が使う研究室以外なら大体どこで飲食しても大丈夫なんだけどお湯は食堂にしかない。ウォーターサーバーは各部署にあるのに何のケチか水しか出ない。 テコテコと食堂に移動したけど人はほとんど居ない。土曜日はいつもこんなもんだけど、いつも見てる賑やかな食堂とは全然違うなあとくるたびに思う。 「良かった、人少ない」 「土曜日だからね」 カップ麺にお湯を注いだ阿川くんと、コンビニで買ってきたおにぎりやサンドイッチを齧る俺。唐突に話し出した阿川くんは見た目に合わないものすごく乙女チックなことを話していて、俺は脱力した。

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