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俺より少し背が高くて、体つきはがっちりとした、どこからどう見ても男らしい阿川くん。中身は乙女だ。
ミホちゃんのタイプってどんなだろう?から始まり、最後はミホちゃんの好きな人になりたいと呟いた。詩人かと突っ込みたかったけど、そんな空気でもなかった。そんな乙女なことを言う阿川くんが真剣なもんだから笑い飛ばすことも出来なかった。
意外に乙女な阿川くんに驚きながらも、残念ながら俺は力になれそうにない。でも今度、できるだけそっとミホちゃんの好みくらいは偵察してあげてもいいかなと少し思った昼休みだった。
定時は無理だったけど、何とか夜ご飯に間に合う時間に仕事を終えて家に帰る。今日の夜ご飯は何かなあと玄関を開けて、すぐにメニューを察する。
「わーいカレーだあ!」
「っ、おかえり」
「ただいまっ」
玄関を開けただけで漂ってきたいい匂いに釣られてリビングに入り、おにーさんに飛びつく。早く帰ってこれたよと、頑張ったよと言えばいい子って頭を撫でてくれるその手が心地いい。もっとグリグリしてたかったけど、今日は業務上汚れまくってるからかおにーさんにベリッと剥がされて脱衣室に投げ込まれた。
渋々受け入れて、ご飯の用意しててねと念を押してシャワーを浴びた。シャワーを浴びる俺から伝い落ちる雫が灰色で、俺はどんな環境で働いてるんだろうと悲しくなった。サビ残地獄の低所得、労働環境はX線に粉塵舞い散るところなんて当たり前。霧のシャワーかと思えばその霧の主成分がシンナーなんてことも多々あるからマイガスマスクなんかも持っていたりする。シャワーを浴びるだけでため息が出たけど気にせず洗おうとして、手が止まった。
もしかして、シャンプーでちゃんと髪洗ったら、おにーさんと同じ匂いになるかな?
そんな気持ちが湧いて、珍しくシャンプーで髪を洗い、ボディソープで体を洗った。多分おにーさんと同じ匂いがしてるであろう自分はなんとなく嬉しい。
あがったよと言いながらリビングに入るとおにーさんはちゃんとご飯の用意をしてくれていて、食べたいだけご飯をよそえと言われた。今夜はカレーだから大皿を取り出して、炊飯器を開ける。ほかほかと湯気の立つご飯、大好き!好きなだけ、まさにてんこ盛りにご飯をよそった俺に苦笑いするもののそのままカレーも入れてくれた。
「お前、太らない割にほんと食うよな」
「そおかな?あんまり気にしたことなかった」
そう言いつつ見比べてみるおにーさんのカレーと俺のカレーじゃご飯の盛り方が違う。
「カレーって飲み物だから!」
「細いやつから出るセリフじゃねえな」
そんなくだらない話をしながら夜ご飯を食べた。
ご飯も食べ終わり、ソファに転がって片付けをするおにーさんをみる。やっぱり夜に家にいれるっていいなぁとしみじみ思う。ソファにグリグリしているとふんわり、おにーさんの匂いがした。そりゃこの家はおにーさんちだから当然なんたけど。たったそれだけのことで恋しくなるなんて、俺は重症だ。
「誠?」
「んー」
「どうした?」
「ぎゅってしたくなった」
まだ片付けをしてるおにーさんの背中に抱きつく。あったかい、あったかくていい匂い。もおやばい、大好き。邪魔だろうに振り払うこともなくそのまま片付けを終わらせたおにーさんは俺に向き直してぎゅっとしてくれる。嬉しくってグリグリ頭を押し付けた。
「ん?」
「んう?」
「お前、今日シャンプー使った?」
あ、ばれた。なんとなく恥ずかしくなって、さらにぎゅっと抱きついて、おにーさんと同じ匂いになった?と聞けばくすっとした笑い声が聞こえた。
「お前、ほんと可愛いことするな」
俺、人のこと言えないくらい自分も乙女かもしれない。そうだよ、冷静に考えればシャンプーとかの香料は同じでも体温やら皮脂のpHバランスとかで匂いは若干変わるものなのにあの時はそんなこと考える余裕なかった。
無駄に恥ずかしい思いをしただけじゃん。
「誠」
「はぁい」
「そのまま脱いで」
「へっ?」
脱いでと、もう一度言ったおにーさんを見上げると、それはそれは意地悪な、俺のことをいじめてやろうという顔をしたおにーさんがいた。
とくんと高鳴った心臓と、ズキンと疼いた体の奥。逆らうことなく、俺は服に手を掛けた。
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