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むくれる俺に後でな?と優しく言ったおにーさんだってその目に熱を孕んでた。仕方なく頷いて、ベッドから降りて立ち上がる。 「穂高さん」 「なんだ?」 「………ミホちゃん、帰ったら続きしてくれる?」 「その気のままだったらな。弟じゃなけりゃ追い返してる」 苛だたしそうに言うけど、何だかんだおにーさんはちゃんとお兄ちゃんをしている。俺だってもう23なのに、やっぱり兄たちの前ではいつまで経ったって弟だからこういうもんなんだなあと思う。 ふふっと笑って、リビングに向かった。 リビングでは少し申し訳なさそうにするミホちゃんがソファに座っていて、俺が入るなりごめんなと謝られた。さでぃすてぃっくで意地悪だけど、こういう常識があるっていうのは憎めない。 「いいよ。あそこのシューアイス好き」 「うまいよな。味は抹茶とバニラとチョコといちごあるから誠くん好きなの2つ食べていいよ」 「わあい!ミホちゃんは何味が好きなの?」 「抹茶」 「穂高さんは?」 「バニラ」 よし、俺はチョコとイチゴだ。その中で苦手なのって抹茶だけなんだよなあ。抹茶チョコとかはたまに甘いけど、でも苦いのだってあるじゃん。抹茶パフェとか生クリームは甘いのに抹茶パウダーが苦くて俺にとってはよく分からない謎の食べ物。苦味のある抹茶は俺の舌と相性が悪い。 「誠くん抹茶無理なの?」 「うん」 「こんなうまいのに」 「苦いもん」 「誠になんか買ってくるなら小学生の子どもが好きな味買っとけば間違いねえよ」 「穂高さん、それは言い過ぎ!」 「ああ、今時小学生でも抹茶のお菓子くらい食うか」 「さらにひどい!」 お子様舌な自覚はあるけど、そんな小学生と同じくらいって言われるとちょっと。別に苦いものも辛いものも食べなれなくて困らないもんね。 「穂高さん?誠くんって兄貴のことそう呼んでたっけ?」 ふおお!鋭い! どうしようとおにーさんを見ると、おにーさんは相変わらずのすました顔で今は付き合ってるなんてケロっと言った。そんなことを言われた俺は顔が熱くなるのを自分でも感じた。 「へえ、そうなんだ。兄貴、誠くんの育て方教えて」 「「?」」 ミホちゃんの唐突な質問に俺とおにーさんは首を傾げる。そんな俺たちを放ってさらに続けたミホちゃんは、自分に従順で痛いことされるのが好きなバカにしたいんだけどどうしたらいい?と言った。なるほど、阿川くんのことか。 昼は阿川くんの乙女チックな悩み相談?を聞き、夜はミホちゃんの女王様な相談を聞くことになるとは濃い1日だ。 「誠くんもなんでそんな兄貴に懐いてんの?」 「大好きだから」 「痛いことされても?」 「…………痛いだけに、されないし」 痛いことされてるのに気持ちいいなんて、あんまり言いたくなくて小さな声になったけどおにーさんはいい子って言うように俺の頭を撫でてくれて、ミホちゃんは呆れたようにため息をついた。 「こいつの体、穂積が思ってる以上にバカだから」 「そうなの?」 「俺、こんなバカな体見たことねえよ」 「ちょっと!穂高さんのせえじゃん!」 「大方才能だろ」 うぐぐ、確かにその通りだ。おにーさんに飼われることがなければきっと俺は自分がこんな体だったなんて知らなかったとは思うけど、おにーさんがどうこうした訳でもないのに俺の体はバカすぎる。言い返せずに黙るとミホちゃんにはそんなバカなの?って聞かれたおにーさんは黙って頷いていた。 「はぁ、どうしよう」 「ミホちゃん、阿川くんと何あったの?」 「何、あいつまた余計なこと言った?」 「ううん、特に何があったとかは聞いてないけど阿川くんが乙女すぎてびっくりしただけ」 「乙女?あいつが?」 「うん、ミホちゃんの好きな人になりたいって言った時は固まったよ」 笑うことさえ出来なかったと続けようとしたのに、それを聞いたミホちゃんとおにーさんが同時にぶぶっと吹き出してそれどころじゃなかった。 「あ!そうだった!そんなわけで、ミホちゃんの好みタイプ教えて?」 せっかくミホちゃんが来たのにタイミングがタイミングだったから、それを聞いてみようと思っていたのをすっかり忘れていた。思い出したので聞いてみると、言いづらそうに俺とおにーさんを見比べて、はあとため息をついたあと、兄貴といる誠くんと諦めたように答えてくれた。 「へ?俺?ミホちゃん、こんなもやし体系が好みなの?」 「体型の話じゃないし。体型はあいつで文句はねえよ」 「あ、そうなの」 もうちょいでかくてもいいけどなんて言葉にどこが!?ってうっかり突っ込みそうになったのを堪えた。 「俺、穂高さんがミホちゃんみたいだったら好きにならないよ」 「何、怒られたいの?」 「違うって!俺は甘えたいし甘やかされたいもん」 「見ればわかる」 「けど、阿川くんは違うんじゃない?」 俺は飴と鞭で言うなら9:1くらいの比率じゃなきゃ無理だけど、阿川くんは多分逆でもいける人。出なきゃこれまでのミホちゃんの対応に耐えれてないと思う。 「ミホちゃんがどえすで女王様って知ってても好きなんだから、俺の飼い方とは違うと思うよ」 「ぶっ」 「くっそ、ほんと頭良くて腹立つ」 なんか笑われるようなこと言った?おにーさんは笑ってるし、ミホちゃんは明らかに顔をしかめて俺を睨んでいる。念のためおにーさんのそばに避難すると、更なる舌打ちと共に兄貴のもんに手は出さないと渋い顔して言われた。

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