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「なあ兄貴、疲れない?」
「別に」
「俺は頭もバカなやつがいいわ」
「俺は察しがいいこいつと居るのが楽だけどな」
頭のバカは疲れると言うおにーさんと、何もわかってないやつの方が楽じゃない?と言うミホちゃん。やっぱり似てるけど違うところだって沢山あるからおにーさんがするようにする必要なんてない。
阿川くんだっていきなりミホちゃんに甘やかされたら、きっと戸惑ってまた俺んところに来ると思う。
「阿川くんはミホちゃんの好きな人になりたいって言うんだから、穂高さんと同じじゃなくていいと思うよ」
「俺下手なんだよ」
「エッチが?」
「殴るよ」
「痛ッ!ちょ!もお蹴ってる!あたッ!」
殴るよって言ったと同時に足を蹴られる。確かに殴ってはないけど!けど!蹴る時も宣言して!
逃げようとする俺の肩を押して、さらに意地悪く笑ったミホちゃんが詰め寄ってくる。
「そんなこと言うなら試してみる?」
「へっ!?やめてっ!!」
「誠くん、今更挿れていけるか試してみたくない?」
「ないっ!やめて!お願い!おにーさんの視線が怖い!」
「………兄貴、悪かった。俺が悪かった」
こうして意地悪するミホちゃんって、なんか一気に色気が……って一瞬思ったけど、ミホちゃん越しに見えたおにーさんの冷たい視線に背筋が凍りついた。何やってんの?って怒気を孕んでいてものすごく怖い。そして、その視線を全力で向けられたミホちゃんは降参と両手を上げて俺から手を離してくれた。
なんだろ、おにーさんに対するのとは全く違うドキドキが……ドキドキだった。ミホちゃんって、エッチな意地悪をする時って妖艶。男の人に使う言葉じゃないんだけど、俺のボキャブラリーの中ではそれが一番しっくりくる。
「兄貴、なんか突っ込むもん買ってあげたら」
「ちょっと待って何の話!?」
「入れる場所なくて困ってるかなと」
「余計なお世話!もお良いの!そもそも俺オナホ好きじゃ無いもん!」
「「使ったことあんのかよ」」
仲良しか!突っ込むタイミングが一緒!そして楽しげに俺を見てる目も一緒!もおやだ!
「誠くん、そんなに彼女居なくて困った時期あったんだ」
「意外と性欲強いもんなお前」
「好き勝手言い過ぎ!」
彼女が居なくて困ったから使ったわけじゃ無い。なんならあれを使ったのは彼女が居た頃だ。セックスレスに悩んだとかでなく、ただただ好奇心に負けたのだ。どんな風にできてるんだろう、どんなものなんだろうと気になって、興味を持って買ってみたのだ。一度気になると止まらない俺は貫通型や非貫通型はもちろん、お尻を模したものも用意したりした。なににあんな執念を燃やしたのかは謎でしか無いけど、全部無駄だった。
あんなおもちゃなんかより、人とするエッチの方が暖かくて何倍も気持ちいいと、当時の俺でさえそう思った。だから、絶対に要らない。
2人にケラケラと笑われて俺はプンスカと怒ってみせる。そんな俺を宥めようとするのはやっぱりおにーさんの方でこっそりと耳打ちされた内容がなんというか、実にらしい。
あれも気持ちいいって教えてやるよ
っていつもより少し低くてやらしい気持ちをたっぷり含んだその声に、ゾクゾクとした何かが体の中を駆け回った。おにーさんも十分に、というか俺にとっては過剰なくらいに色っぽい。………股間が痛い。
ああもう、なんでこんな話になったんだっけ?と頭を回して、ミホちゃんの下手発言だ。
「ミホちゃん、なにが下手なの?」
「そこに戻んの?」
「うん」
「………忘れること。記憶力が無駄にいいっつーか、ほんと忘れんのが苦手」
人は忘れる生き物だけどそれが苦手な人もいるんだなあ。
ミホちゃんが辛い思いしないに越したことはないんだけど、それは誰にもわからない。ミホちゃんがどれほど相手を大事に思っても伝わらないなら意味がない。そして相手だっておんなじように大事に思ってくれなきゃ意味がない。
「そっかあ」
「………傷ついてもいいって思えるほど好きになればいいとか言わないの?」
「言わない」
ミホちゃんが何年引きずってるかわからない傷を他人の俺がとやかく言う権利はない。だから、
「けど、もし今後傷ついたら一緒に泣いてあげる。ちょっとだけなら八つ当たりもされてあげる」
「生意気」
そんなことくらいしかしてあげられない。傷ついてもいいと思えなんて言えない。俺はミホちゃんが傷つかない結果になって欲しいって思ってる。だからって阿川くんを信じろとも言えない。
ミホちゃんは俺を睨んでるのかも知れないけどその目は全然鋭くなくて笑い返すと、クソ生意気という言葉とともに軽い蹴りが飛んできて結局俺は逃げ回っていた。
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