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「ごめん伊藤くん!これ明日までに基本検査と材質調べてくれる?」 「伊藤くんごめん、これ作りたいんだけど」 「伊藤くん悪いね。ちょっとこれ直しててもらっていい?」 俺の名前、佐藤とかにならないかなあなんて非現実的なことを考えて逃避したい。今すぐ逃げ出したい。 おにーさんと甘い甘いバレンタインと週末を過ごし、少し落ち着いて仕事をしていたと思った矢先、俺はとんでもない仕事に追われている。 平日定時に帰るだとか、土曜に休みたいだとか、そんな予定も何もないのに毎日午前様が続いている。そして1番問題なのが今がもう3月だってこと! どうやらおにーさんも忙しくなってきたようで、朝でも顔に疲れが見える。そして、癒し隊員(仮)であるはずの俺がおにーさんが起きている間に帰宅できないというか日々が続いている。 俺自身だって、起きてるおにーさんに会えるのが朝の数十分だけでものすごく寂しい。俺が残業し過ぎなせいだからおにーさんに文句言ったりはしないけど、やっぱり寂しい。 週末の金曜日、やっと仕事が終わる頃には土曜日になっていて帰宅して寝たら何時だろって思うと嫌になる。それでも明日も仕事っていうのが更に嫌になる。 営業さん毎、と言うか取引先毎にやっぱり決まった検査があってそれは慣れた人がやるべきだからたまたま俺がやることが多いってだけだし、俺がずっとやっていた研究がついに試作段階に入ったからそれを見るのが俺になるっていうのはもちろん理解している。仕事として俺がするべきなことは分かっていても、量が多すぎる。 静かに玄関を開けてリビングに行けば寝ていると思っていたおにーさんが起きていた。おにーさんも疲れてるはずなのに待っててくれたの?と嬉しくなって、疲れも忘れてリビングに駆け込んだ。 「………穂高さん、食べづらい」 「我慢しろ」 「むむっ、せめてお尻っ」 「疲れてんだから仕方ねえだろ」 うわぁあん!おにーさんも忙しくなって、夜ご飯はいつもより手間がかからないものになっているらしいけどそれでも毎日作ってくれている。そんな美味しそうなご飯を前にしてるのにこれじゃ食べづらくてしょうがない。 後ろから抱え込まれて、おにーさんの唇がくちゅくちゅ俺の首を舐めていて食べることに集中できない。もっと言えば、疲れている上に眠いのもあってか俺のお尻にはおにーさんの硬くなったものがゴリゴリ当たってる。むりむりむりむり。こんなんで食べれるほど俺図太くないよ! それでもお腹はぐーぐー鳴っていておにーさんに早く食えと言われる。やけくそになってご飯を食べたけど、泣いてるわけでも風邪を引いてるわけでもないのになんの味も感じなかった。 「味がしない………」 「まずかった?」 「ドキドキしすぎて味を感じる暇がない」 「ん、ならいい」 なにが!?全然よくないよ! 片付けに立とうとしたのに、明日やるから置いとけって言われておにーさんに抱き込まれる。心地いいけど、お尻に当たるものが気になる。もじもじ体を動かしたら擽ったいと更に力を込めて抱き締められてしまった。 ドキドキするけど、心地いい。すごくすごく安心する。ゆったり凭れかかるとおにーさんにペロって首を舐められてハッとして立ち上がる。 「どうした?」 「しゃわー……」 「ああ、まだだったか。いいよ、その間に片付けとく」 「ありがとお」 意外にも直ぐに離してもらえて、背伸びしてちゅっとお礼してシャワーを浴びに行く。あんまりゆっくりせずにささっと終わらせよう、明日も俺が仕事だからってきっと朝起きてくれるからせめて早く寝かせてあげよう。 ささっとシャワーを浴びて頭と体を洗う。今日エッチするかは分かんないけど、こんなに汚れた体で同じベッドで寝るのは申し訳ない。おにーさんも仕事後の俺がどれだけ汚れてるからを知っているからシャワーは行かせてくれたのかなあと考えたりもした。 シャワーを浴びてスッキリして浴室を出て、しっかりと頭を乾かす。生乾きのまま寝ても風邪なんて引いたことないけど、おにーさんが気にしていつも乾かしてくれるからそんな手間をかけないために今日は念入りに乾かした。 念のため静かに廊下を歩きリビングに入るともう寝そうなおにーさんが居て可愛いなあと思う。おにーさんは俺に比べると夜に弱い。そりゃ大人だから起きてられるけど、こうして疲れた1週間を過ごしてからの夜更かしは辛そうだった。 「穂高さん、お待たせ。ベッド行く?」 「そうだな。今日はちゃんと頭、乾いてんな」 「んっ、ちゃんと乾かした」 声を掛けたら目が合って、優しく笑ってくれる。おにーさんと手を繋いで寝室に入るともつれ込むようにベッドに転がった。もぞもぞと動いておにーさんの方を向いてぎゅうっと抱きつく。俺の体に当たる熱いものが気になってフェラする?と聞けばいい、寝ると短い返事が返ってくる。疲れと眠気でおっきしてるだけで、おにーさんの性欲とは無関係らしい。 「穂高さん、おやすみなさい」 「おやすみ。お前居るとすぐ寝れそう」 「俺も」 とくとくと聞こえる心臓の音が心地よくて、あったかいその体温に安心して、すごくよく眠れる。 目を閉じて少し顔を上げるとくすっとした笑い声と一緒に唇が降ってくる。本当に性的な欲望は無いらしく、触れるだけの可愛いおやすみのちゅーをして、久しぶりの快眠を貪った。

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