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「お前がいないことに苛々してんだよ」 おにーさんと初めて喧嘩らしきものをした。 俺はおにーさんが大好きだから、甘えることももちろん大好きだけどただ負担になるだけのやつにはなりたくない。忙しい時くらい助け合える関係で居たい。だから、俺だってこれは折れることが出来なかった。 だけどおにーさんが俺に望んだのは掃除でも洗濯でも料理でもなくて、家に帰ってくることだった。意味が分からなくておにーさんを見上げると、ああもうと苛立った様子で頭を掻く。 「お前が居ないせいで寝れねえし疲れ取れねえし仕事に集中できねえしクッソ迷惑してんだよ。だから起きてる間に帰ってこい。どうしても家事の分担がしたいっつーならそれからだ」 間違いなくイライラしてるおにーさん。言い放つ言葉はいつもよりきつくて乱暴に聞こえる。けど言ってる内容は酷く俺に依存してると言うことだ。俺が居なきゃ寝れなくて、疲れも取れなくて、その結果仕事に集中出来ないと文句を言われている。 「お前何笑ってんだよ?こっちはマジで苛立ってんだよ」 「穂高さん、俺に依存してるの?」 「………言ってんだろ、俺もお前に甘えてんだよ」 「俺なんもしてないよ」 「お前が生活を俺に甘えてるって言うなら俺は精神安定をお前に委ねてんだよ。マジでイライラするから帰ってこい、出ないと何するかわかんねえよ」 「!?!?」 さっきまで怒ってたはずなのに今はそんな気持ちはどっかに行って、俺が居なくて寝れないし疲れ取れないし仕事もできないと責任転嫁してくるおにーさんが可愛くって仕方ない。 「そんなことでいいの?」 「それがいいんだよ。お前のせいで仕事終わんねえとか笑えねえよ」 「それ俺のせいじゃ無いよ」 「ああ?お前が帰ってきてその辺で転がってればそれでいいのにそれも出来ねえ社畜が口答えすんな」 「横暴!むちゃくちゃ!」 なんたる言い分! むちゃくちゃ過ぎやしません? 帰ってきた俺がおにーさんに何かするでもなく転がってろって、それ本当に帰ってくるだけじゃん。それほぼ何もしてない。それこそここまで仕事が立て込まなきゃ普通に出来ていたはずのことだ。 「できる?」 「………穂高さんが可愛くて死にそう」 「なんでだよ。つーか可愛くねえよ」 可愛いよ。そりゃ言ってることはむちゃくちゃだし横暴だし全然理屈として通らないけど、俺が居ないと仕事に影響が出るとか可愛すぎる。 「俺、役に立ってる?」 「立ってる。居ねえと俺の生活が荒む」 「ほんとにそれだけでいいの?」 「ああ」 そうして俺を見るおにーさんは嘘を言ってる感じはしない。じっとおにーさんを見る俺を引き寄せてぎゅうっと抱きしめて来て、これでもお前に依存してんだよと苛立たしそうに言い捨てた。苛立ちながらも必要だと言われるのは嬉しくてすごくむず痒い。ぎゅっとおにーさんの背に手を回して、帰ってこれたら家事の分担してくれる?と聞けば渋々帰ってこれたらなと言ってくれる。 「頑張る。穂高さん、それで元気になる?」 「ああ、自分でも驚くわ」 「なにに?」 「ぐうたらしてる奴がいなくて余計イライラするとか俺もやばいな」 「俺のこと好きってことだね」 ちょっと調子に乗ったこと言ったけど、おにーさんは言い返してくることはなく黙った。絶対何か言い返されると思ったんだけどなあと不思議に思っていると、ニンマリ笑ったおにーさんと目が合う。嫌な予感……… 「そうだよ。誠のこと好きすぎてぐうたらしてても可愛くてしゃあねえの」 「っッ!」 「誠、すっげぇ好「だめえ!ごめんなさい!からかおうとしてこめんなさい!」 ニンマリ笑った顔は一瞬で甘い笑顔に変わり、その声も甘ったるい。からかおうとしたことはバレていて、これはおにーさんなりの仕返しだ。こういう風に言われるのは嬉しいけど恥ずかしくて、逃げ出したくなる。そうして逃してくれる人じゃないけど、もおやめてと半分泣きついた。 俺を抱きしめたまま、だからどっか1日帰ってこいともう一度言われて、俺はコクリと頷いた。

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