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「いつから好きかもなぁって思ったの?」
「いつだろうな。分かんない。けど俺にあんな執着する奴他には知らないし、たまに可愛く見え……ってなに言わすんだよ!」
「ふふっ、ごめっ、ごめんって……ふふっ」
だめだ、笑いが溢れる。堪えてるつもりだけど体がぷるぷる震える。油断したのかミホちゃんはポロっと答えてくれて、その言葉はおかしい。だって俺は阿川くんのことを恋する乙女かとは思っても可愛いとは思わない。
「ああもう!本人に言うなよ!」
「言わないって。けど、そんな風に思ってるなら蹴らずに話しかければ良いのに」
「それが出来たら苦労しねえよ」
「ほんと不器用でめんどくさいね」
俺がそう言うと舌打ちが聞こえて、俺はまた笑ってしまう。不気味だなんだと言いながらも相手をして、可愛いと思っているなんてミホちゃんはなんだかんだ阿川くんに絆されてしまっているらしい。
阿川くんも阿川くんだけど、ミホちゃんもミホちゃんだ。どっちも恋愛に不器用すぎる。見ているこっちがきいぃぃ!となりそうだ。俺が心の中でハンカチを噛み締めているうちに散髪が終わったようで、パサリとケープを外してくれた。
「誠くんは辛くなったりしない?」
「?なにに?」
「兄貴に。優しくしたかと思ったら痛いこともしてくるだろ?」
「そぉだね。けど、そんなの知ってるもん。知ってて好きだから、そういう意地悪なところもなきゃやだ」
「そういうもん?」
「そういうもん。カレーで例えるならそれがスパイスだよ。それがなきゃスパイシーなカレーにならない」
「例えの意味がわかんない」
わかりやすく言ったつもりなんだけどな。スパイスの効いてないカレーは美味しくても何か物足りない。スパイスが効いてると少し辛いけど、それを上回る旨味が出る。そして、その旨味を知ったらスパイスの効いてないカレーになんて戻れない。
「へぇ、兄貴ってカレー作るときに香辛料も使うんだ?」
「使ってねえよ」
ミホちゃんの質問に答えたのはホカホカ湯上りのおにーさんで、俺はその人を見て迷いなく飛びつく。グリグリと頭を擦り付けるといつもよりあったかい体と少し残るソープの香りに包まれる。そんな俺の頭をさっぱりしたなと撫でながらおにーさんはミホちゃんと会話する。
「入れたことあるけど誠が辛くて食えねえって言うからほとんど使ってない」
「はあ?」
「ミホちゃん、例えばって言ったでしょ」
「今の言い方だと絶対使ってるって思うわ」
「香辛料入れたのも美味しいけど、辛くてお腹いっぱいになる前に俺が火を噴く怪獣になる」
「「ならねえよ」」
なるもん。何度かおにーさんは香辛料を入れてたけど、その度に俺は水と牛乳が欠かせなくて食べ終わる前にギブと残ったカレーをおにーさんに押し付けていた。いつからかカレーの辛さはほとんど無くなり、おにーさんが辛くなるらしい変なソースをかけて食べるようになった。
「つーかなんの話?カレー食いたい?」
「ううん違うよ。意地悪なエッチはスパイシーで元のカレーには戻れないって話!」
「意味わかんねえよ」
「そぉかな」
分かりやすく例えたつもりなんだけどなぁと思う俺の耳元に口を寄せて、今日は酷くしろってこと?と楽しそうで意地悪な、それでいて甘ったるい声で聞いてきた。ブンブンと首を振ってみるけど、恥ずかしくて赤くなった顔と、少し期待して熱くなった体はこんなに近い距離にいたらきっと隠せていない。その証拠におにーさんはいい子って優しく言って頭を撫でてから俺の体を離した。
「吐きそう」
「ミホちゃん体調悪い?」
「ちげえよ。兄貴は優しいけど、こんな甘ったるいとは知らねえよ」
「いいでしょー」
「いつもの兄貴でいいわ。だめだ、こんなバカ2人見てると考えてる自分がすっげぇアホらしくなる」
「実際アホなこと考えてるもんね」
「ああ?」
「だってそうじゃん。阿川くんは女王様なミホちゃんとエッチなことしても好きなのに怖がってるのはミホちゃんじゃん。傷付くかどうかは阿川くんが決めることなのに。ちゃんと見てたら、阿川くんが本当に嫌なことだってきっと分かるよ」
「………」
「くっ、くくっ」
「兄貴っ!」
黙ったミホちゃんと笑うおにーさん。おにーさんはミホちゃんには良いだろこいつと俺を見て笑う。ミホちゃんはすっごく嫌そうな声で俺は嫌とはっきり言った。
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