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142.
そのあと少し話をしてミホちゃんは疲れたと言って帰って行った。今日のミホちゃんは俺と話をしたいついでに散髪もしてくれただけで完全に散髪がおまけだった。
「ミホちゃんってめんどくさいね」
「まあな」
「穂高さんはミホちゃんが1番歪んでるって言ってたけど、それって優しい性格とさでぃすてぃっくな性癖が噛み合ってないってこと?」
「そう」
あんまりにも反対を向いてるもんね。
しかもミホちゃんは悲しいことに、それを天秤にかけて優しい性格が勝った結果ひどく傷ついた。そのせいでその歪みはさらにいびつなものになったと思う。見たこともないミホちゃんの初恋の人を俺は心の中で踏みつけておいた。
「おにーさんはいつからさでぃすてぃっくだったの?」
「気づいた時には」
「気づいたのいつ?」
「あー、高1とかその辺?」
人生のほぼ半分をさでぃすてぃっくな性癖とともに生きてきたらしい。おにーさんも優しいから、ミホちゃんみたいな葛藤を抱いたことがあるのかな……。聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ちだ。
「なんつー顔してんだよ」
「ふくざつ」
「何が」
「穂高さんもミホちゃんみたいに悩んだのかなとか、どんな人とお付き合いしたのかなとか。言っても意味ないことなんだけど、ふくざつ」
「確かに意味ねえな」
そう、だから複雑。おにーさんがどんな風にその性癖に悩んでいたとしても俺はそうして出来上がった今のおにーさんが好きだし、たとえ過去にどんな人とお付き合いしてても今は俺のものだ。それでも少しむっとして尖った俺の唇にちゅって優しいちゅーをしてくれて、俺はその唇を緩めることになった。
「俺は穂積ほど悩まなかったよ」
「そぉなの?」
「ああ。性癖が合うやつと付き合えばいい、好きになればいいって思ったけどそうじゃなかったな」
「うん?」
「勝手にそうな奴はそれはそれで楽だけど、お前みたいに何も知らない奴がどんどん堕ちていくのがたまんなかった」
「穂高さんがこうしたんだよ?」
「知ってる。すっげぇ可愛い」
嬉しそうに笑って顔を寄せてくるから俺も目を閉じる。思った通り唇と唇が合わさって、触れるだけのキスを何度もされた。そんな優しいキスをしながら、本当に嫌なことを俺がしたら殴ってでも逃げろよと少し悲しそうな声で言った。その声を聞いてきっと俺の知らない昔に、おにーさんも傷ついたことがあるんだなと思った。
のは俺の気のせいだったかもしれない。
「これ、なに?」
「首輪」
そうじゃない!それは見たらわかる!
なんでだ!なんでこうなった!
優しいちゅーにうっかりムラムラした俺をお風呂に押し込んだおにーさん。ムラムラしたままお風呂から上がると、おにーさんはおいでって優しく寝室に誘ってくれて俺はホイホイとついて行った。そこで渡されたのが2つのプレゼント。1つは分かる。俺も少し大きさは違うけど同じ包装紙に包まれたそれを持っている。ついでに俺もとおにーさんに渡して、改めて貰ったネクタイを見る。おにーさんと色違いのもの、お葬式用の真っ黒のもの、そして結婚式とかに使えそうな明るく少し派手なもの。
「こっちは?」
「開けてからのお楽しみ」
そう言ったおにーさんに当然嫌な予感はした。だけど開けないわけにもいかず、恐る恐る開けることになったのだった。
そこに入っていたものが、首輪だ。なぜかチェーン付き。ついに俺のこと外飼いする気になったとか?俺は家飼い専用だよなんて心の中でどうでもいい抵抗をしていると、おにーさんがうっとりと呟く。
「ネクタイに首絞められてる誠にクるもんがあって。いつもネクタイじゃ伸びるだろ」
「そういう問題じゃないよっ!?」
「それに俺のネクタイって比較的滑りいいの多いから引っ張りにくいし」
「そういうことも言ってないよっ!?」
「ってなれば丈夫で引っ張りやすいのが必要だろ?」
「なんて思考回路っ!穂高さん忙しくてバカになったの!?」
「似合うと思う」
「会話してっ!?」
俺に似合う?なんて俺一言も聞いてないから!そして似合っても嬉しくないから!
だめだ、おにーさんの思考回路が読めない。何でこんなことに?いやいやと首を振る俺に近づいてくるおにーさんはすごく楽しそうに笑っている。
「それさ、絶対俺の支配欲が満たされる」
だからいいよな?なんて言うおにーさんの目は座っている。だめだ、この人仕事が忙しくて色々とやられてる。こんなにもおにーさんと会話が成り立たないなんて。
「誠、いいだろ?」
俺に顔を寄せてほっぺや鼻に軽くちゅってしながら、甘ったるい声でねだられる。俺はこれに本当に弱くてほとんど無意識に頷いていた。頭が熱から覚める頃には自分の首から見慣れない何かが垂れ下がっていて、満足そうに俺を見下ろすおにーさんに、ゾクゾクした。
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