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おにーさんが満足したかどうか分からないけど、俺のお腹は空腹の限界とぐぅう〜っと空気も読まずに鳴った。 ぶっと噴き出したおにーさんは飯にするかと俺をソファに座らせて立ち上がる。せめて手伝う!と言うとなら先に風呂沸かせと言われてお湯を張りに浴室に向かった。 おにーさんが夜ご飯を麺類にするのは珍しい。俺は麺類も好きだしお腹がいっぱいになればなんでもいいんだけど、まだ寒いこの時期の煮込みうどんは最高だ。 「あったまるぅ」 「明日カレー多めに作るか」 「そうだね、カレーライスにカレーうどん、カレードリアといろいろ使える」 「そんだけ続いて平気か?」 「うん!」 「悪いな。入院さえ無けりゃもうちょい落ち着いてんだけど」 「入院は仕方ないよ」 「誠なんてあのブラックで体調ひとつ崩さねえのに、うちの若手はダメだな」 おにーさんはダメだと言って首を振るけど、多分俺が丈夫なだけだと思う。おにーさんがインフルの時にちゅーしたとしても俺は移らない自信がある。 「肺炎ってどのくらいで治るの?」 「予定では1週間入院して、検査結果次第だな。退院してもすぐに仕事は無理かも知んねえし、期待せずやるしかねえよ」 「そっかぁ」 おにーさん、すごいなあ。俺、もし技術部の誰かが入院とかしたらそりゃ当然仕事はするけどおにーさんに泣きついてぐちぐち愚痴をこぼす自信しかない。 こんな風に仕方ないと諦めることはきっとできない。 俺はせめてでも、おにーさんを存分に甘えさせてあげるために出来るだけ早く帰ってこれるように頑張ろうと心の中で密かに決意した。 そんな決意が届いたのか、3月の間は9時頃に帰れる日がほとんどだった。おにーさんは帰ってきてることが多かったけどのんびりしてるというよりは疲れてぐったりソファに沈んでいた。 おにーさんが楽になったのは3月が終わる1週間前で、入院していた人がようやく職場復帰を果たしたらしい。 「やっと3月が終わる」 「良かったね」 「はぁ、明日からは新卒がくんのか」 「そうなんだよ!うちにも来るの!」 「はあ?」 「技術部に人が増えるんだよぉ」 「また社畜を生み出すのか」 「言い方っ!」 ため息と一緒に言われた言葉は決して間違ってはいない。だけど俺にとっては嬉しいニュースだ。それも院卒らしいから学部卒の俺よりもたくさん研究をして来てる。そんな人が入ってくるなんて嬉しいと言えばおにーさんはちょっと渋い顔をした。 「年上の後輩とかやりづらくねえ?」 「うーん、人による!」 「ははっ、誠らしいな。お前なら案外うまくやんのかもな」 「?」 「俺、口悪ぃからついな。年上への最低限の口調からはみ出したこともある」 おにーさんに口が悪い自覚があったことに驚きだ。 仕事してる時はこんな口悪くねえよと言うけど、俺はこのおにーさんしか知らないからイマイチ丁寧な口調で話すおにーさんを想像出来なかった。

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