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4月1日。
去年の今日は一人暮らしをし始めたアパート(とも呼べないほどお粗末だったと思うけど)を意気揚々と出発したっけ。これから始まる社会人生活に夢見てた去年。
思い描いた社会人生活とは少し違うけど、今はものすごく充実しているからそれはそれでよしとしよう。
意気揚々と技術部の部屋に入り、おはようございますと挨拶をする。
今日は都内のどこかのホテルかなんかで企業全体の入社式をして、そのあと本社配属の人が本社にやってきて本社内を見学する。去年の俺は今日の俺がこんなにも社畜になってるとは知らなかったなぁと感慨深い。
「続いてくれるといいなぁ」
「続かないに一票」
「俺も」
「私も」
「え?」
「俺、伊藤くんも辞めると思ってた」
「え!?」
「伊藤くんが要らないとかそういうことじゃなくて、仕事が過酷だから新卒で入ってきた子で続いたのって伊藤くんくらいじゃないかな」
そう言われて否定どころか納得しかできない。俺はあの時おにーさんに出会えなかったら本当に無職か死ぬかの選択を迫られていたと思っている。
今でも忙しい時は痩せるくらいだし、ここの環境は過酷としか言えない。それでもやっぱり、新入社員が入ってくるのは楽しみだった。
昼休憩を終えて、測定のために実験室で用意をしていると外がガヤガヤと煩くなり新入社員か見学していることを悟る。今年の本社配属は去年より少し少ない6人らしい。男女比は半々、どの人が技術部だろうと年齢から予想してみるけど、どの人も俺と変わりないくらいにしか見えなくて全然分からなかった。
「野田さんは?」
「野田さんは今製造部に行ってます」
「そっか。ここは今部長不在の技術部です。うちの頭ってところかな」
そう言ってものすごく軽い説明をするのは製造部の統括部長だ。製造の現場には詳しくても技術部のことはさっぱりだから、パソコンで作業をしていた内村さんを捕まえて説明を求めていた。
帰る直前、明日からこの子が来るからと統括部長がポンと肩を叩いたのはすらっとした男の子。田中ですと名乗って頭をぺこりと下げてくれて、俺も慌てて伊藤ですと言った。俺に続くように鈴木さんも名乗っていて、うちの部署ってどこにでもありそうな苗字多くない?とものすごくどうてもいいことを思ったのだった。
翌日、統括部長に連れられて技術部にやって来た田中さんは昨日より少しマシな自己紹介をしてくれた。
「田中歩です。大学院では……」
とこんな感じで自己紹介をしてくれた。
有機系の研究をしてたようで、俺にはさっぱりな言葉が並ぶし、他の技術部のメンバーも唖然として眺める中話し終えてすっきりした様子の田中さん。
他の皆さんはどこの院卒ですか?とケロっと聞いてくるあたり、多分田中さんは人の学歴に重きを置いてる人なんだろうなあと思う。
そして、そんなだから当然、学部卒で年も下の俺は社内では一応先輩に当たるはずなのに伊藤と呼び捨てにされ複雑な気持ちになったことは言うまでもない。
俺は呼び方や敬称、敬語にこだわる方じゃないからそれはそれで別にいいんだけど、俺が田中さんに伊藤と呼ばれるたびに周りがピリピリとしていて、ちょっと空気が悪かった。
おにーさんは年上の後輩はやりにくいと言っていたけど、こういうことなのかなあと少し実感したような気がした。
技術部初日だから……という建前で今日は定時を少し過ぎたくらいで田中くんを帰した野田さんは俺を呼ぶ。
「伊藤くん、もっときつく言おうか?」
「俺への言葉遣いと態度なら別にいいですよ。年下だし、院卒の田中さんから見たら俺はしがない学部卒ですし」
「それでも社内では…」
「そうなんですけど、びっくりはしますけど別にいいです。それよりも早くも無表情になってる鈴木さんのフォローをお願いします」
えっ!?と野田さんが俺の視線の後を追い、無表情で黙々と仕事をする鈴木さんを発見して慌てて鈴木さんに駆け寄っていった。
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