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「どこ行ってたの?」
「中型の製造部です」
「ふぅん、今からは何すんの?」
「営業さんが持ってきてくれた部品の基材測定と被膜検査です」
「学部卒がそんなことしてるのになんで院卒の俺がこんな誰でも出来るようなことやんなきゃいけないんだよ」
うわぁあ。
こうもはっきり言われるといっそ清々しい。
けど、その学部卒でも出来る基礎検査をできない院卒は自分だってわかってるんだろうか。測定するだけじゃない、ルールに倣うことができなければなんの意味もない。
俺は去年、ここで育てられた1人だ。ここの部署にいる人は基本的には穏やかだし優しい。疑問にはきちんと答えてくれたし、最初に教えてくれる時は丁寧に教えられた記憶しかない。1度くらい間違えてももう1度説明して、どうしてそれが大事なのかを改めて教えてくれた。
基礎検査を大体できるようになってから、俺が扱いやすい機器を中心とした検査と研究を任されていくようになった。最初からこんなことをしていたわけではない。そしてこれは俺の予想だけど、野田さんは基礎検査でさえ社内ルールに倣わないような人に機器を使った高度な測定なんて絶対にやらせない。
「はあ、こんなことするために入社したわけじゃないのに」
そんな愚痴が聞こえて、俺は何も言わずに次の資料とサンプル部品を持って実験室に入った。
少し薄暗くなった頃に事務室に入ると無人の静かな空間で、きっと田中さんは定時が来たから帰ったんだろうなと思った。
「ん?あれ?俺は去年の今日にはすでに暗くなってから帰ってなかった!?」
「伊藤くんだからね」
「うわあっ!野田さん居たんですか」
「田中くん、帰る時俺には挨拶してくれて測定結果置いときますって言われたから見に来たんだ」
そう言って自分の机に向かいながら、胃が痛いと言ってる野田さんの顔色は悪い。そして、測定結果を見てはぁと深いため息をつきながら椅子に深く腰掛けた。
「伊藤くんの後に田中くん………ダメージがでかいよ」
「?」
「伊藤くんって、なんていうか言われたことはきちんと守るし、誰かに仕事押し付けたりしないタイプでしょ」
うーん、測定の方法に関しては言われたことを守った。会社に入って、それが会社のルールな以上守るしかないことだし。仕事に関しては、どうだろう。どうしても時間が取れない時は製造さんに頼み込んでごめんなさい!とお手伝い出来ずに任せっきりな時もある。
「こんなさ、測定はやっぱり1回で十分だって理論をつらつらと並べなくても俺だって分かってるって」
「………測定はされてたんですか?」
野田さんは首を横に振って、また深い深いため息をついた。
「伊藤くんは言ったようにちゃんとしてくれたから、基礎検査に関してはすぐに網羅したでしょ」
「そう、ですね」
それでも1週間くらいはかかったと思うけど、高度な機器を使わない検査ならその頃には全て教えてもらった。そのあとは他の部署に回る野田さんについて歩いたり、野田さんが機器を使う様子を見たりしながらちょっとずつ俺に仕事を振って行ってくれた気がする。
「まあそんな伊藤くんにも怒ったことはあるんだけどね」
「あの時はすみませんでした……」
「失敗は仕方ないんだよ。俺だってたまにサンプル落としたりしてるし。けど、倣わないのはねえ」
そう言って、伊藤くんも手伝ってくれる?とサンプルを渡してくれた。きっと田中さんに測定を頼んだけどルールに倣ってないためにやり直しになったもの。朝も同じことをした気がするのに、どうして夜もしてるんだろうと思いながらその検査に手を付けた。
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