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157.おにーさんサイド
誠が大浴場やその露天風呂に行きたいと思ってると聞いて、行かせてやろうと本当に思ってた。だけどああ無理だなと思った。他の誰がなんと思おうと今の俺から見たら誠の体なんてそういう対象でしかない。
無駄な肉どころか必要な肉さえも付いてねえんじゃ?ってくらいほっそい体。こんな体で大浴場?って思うとやっぱ無理と思った。そう言って大浴場なんて行けなくする俺に可愛いなんて言う奴は、多分誠くらいだ。
部屋に戻っても機嫌良さそうに俺のそばでゴロゴロしている誠が可愛くて手を伸ばす。気持ちよさそうにすり寄ってきて、ほんとよく懐かれたもんだと思う。
撫でているうちに大人しくなったなと思ったら俺の膝に頭を乗せ、体を畳に投げ出したまま寝てる誠。転がり過ぎて浴衣がはだけて……というには大胆すぎるほど開いていて、そこにはちらほら赤い痕。痛いと言われるけど、まあこのくらいは許してほしい。その分他でしっかり甘やかそうと、その軽い体を布団に運んで眠りについた。
ゆっくりと意識が浮上し、部屋に入る光がほんのり明るくもう少し寝れそうだなと二度寝を決め込んで隣にある温もりを抱え直す。するとそれがもぞもぞ動いて抱きついてくるから完全に目が覚めた。
「誠?起きてんのか?」
「うん」
「何時?」
「6時前だよ」
「早ぇな」
「そうなんだよ!大問題だよ!」
「うるせえ。朝くらい少しは静かにしろ」
「なんで昨日起こしてくれないの!!!」
「だからうるさい」
寝起きから元気な声に少し静かにしろというのにまったく気にする様子もなく俺を睨む誠。大方なんでエッチしないまま寝ちゃうの!って言いたいんだろうけど、最初からする気ないって言ってるだろって話だ。
「せっかくの旅行エッチがあぁっ!」
大当たりすぎて何も言う気になれず、起き上がって浴衣を直す。こいつの中で旅行ってどうなってんだ?って思うけど、家族構成的に旅行はほとんどしたことないって言ってたから偏った旅行のイメージなのかも知れないと諦める。
「これでも穂高さんが起きるまで待ったんだよ?ご褒美ちょおだい」
「いつ起きたんだよ」
「5時半頃!」
「寝ろよ」
「あんまり穂高さんの寝顔って見ないから、つい見ちゃってた」
それはなんつーか、恥ずい。そんなことするくらいなら起こせよ。そんでその全開を通り越して浴衣に申し訳なさしか残らないほどに丸見えの体をどうにかしろ。
「………寝相はそう悪くないのになんでそんなに乱れてんだよ」
「浴衣の七不思議!」
「はあ、直すからこっちこい」
「脱がしてくれてもいいんだよ?」
首を傾げてねだってくる誠に、さらに深いため息を吐いたのは言うまでもない。
せっかく早起きしたんだしと誠に連れ出され、旅館の中庭にある東屋に来てみた。ホームページの写真ではなんとなく流し見てただけなのにいざ来てみると、きちんと手入れされた緑の中にひっそりと立つそこは静かで落ち着く場所だった。
「誠の探検も無駄じゃねえな」
「でしょ?」
「他にも見て回ったのか?」
「うん!ひと通りは。けど、穂高さんはここが1番好きそうかなって」
他は見てないけど、誠のチョイスは悪くない。
そうして朝ののんびりとした時間を過ごし、朝飯を食べて旅館を出る。もう諦めているのか誠は受付に行く俺にとてもとても美味しくて楽しかったですと頭を下げていた。
誠のこういうところも好きだなと思っていたりする。
奢られるのは嫌いだし、誠相手に出させるような仕事や生活をしているわけでもない。それでも何も言わずに甘えるやつより、こうしてありがとうと伝えてくるやつの方が何倍も可愛げがある。
こうして休養目的で旅行に行くことは多々あった。興味のあるところは観光してそれなりに楽しんできたけど、まさか30を目前に旅行予定に水族館を盛り込む日が来るとは思わなかった。
それでも大きな水槽を目の前に、あの魚なんだろう?とか観賞魚コーナーだ!とかドクターフィッシュ!なんて子どもみたいな感想しか漏らさない誠を見ていると、俺まで楽しい気持ちになるんだから、俺も大概誠にハマってんなと思う。
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