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拗らせ系男子こと田中さんに悲鳴をあげながら定時を迎え、やっぱり帰るらしい田中さんの様子を見て違和感を感じた。
自ら残業をせずに帰るんじゃなくて、野田さんが帰るように促してるように見えたのだ。
まあ俺が気にしても仕方ないし、と割り切ってその日の残業が始まった。俺はいつになったら平日もおにーさんとご飯を食べれる時間に家に帰れるんだろう。今の所その目処は立っていない。
なんとか仕事を終えて家に帰ったのは9時過ぎで、ただいま!と玄関を開けリビングに駆け込む。おかえりとこっちを見て言ったおにーさんに飛び付いてぐりぐりと甘える。
「穂高さん見てみてー」
「ん?支給明細?」
「うん!見て!早くっ」
別に興味ねえんだけどって声が聞こえてくるけど気にせずに中身を取り出しておにーさんの前に広げる。もちろん明細だけじゃなくて昇給云々が書いた紙も一緒に見せる。
「今月昇給だったんだな」
「うん!」
「お疲れ様。よく頑張ったな」
「ゔぅ、ゔん!ゔん!」
「なんで泣くんだよ」
「ゔぅ、頑張っだっ」
「知ってるよ」
ぎゅうっと抱きつけば優しく頭を撫でてくれて、何だかんだ言いながらも俺が渡した紙をちゃんと見てくれる。本当に頑張った、1年前の今頃なんて死にそうだったけどそれでも頑張っててよかった。認められるって、こうして反映されるって嬉しい。勉強を頑張って成績が上がって嬉しいのと一緒で、仕事を頑張った分お給料が増えてもすごく嬉しい。
「ズビッ、ごめ……なさい。鼻水つけちゃった」
「もういい。慣れてる」
「えへへ」
「誠は明日も仕事だろ?」
「うん」
「俺は休みだから好きなおやつ買っててやるよ」
ご褒美って言いながら笑う顔も大好きで、俺はやっぱりこの人がいいと改めて思った。
「穂高さんは昇給とか無いの?」
「うちは年俸制だから。2月に審査終わって3月に決定してたけど」
「ほほお、年収が一目瞭然だね」
「お前でも俺の年収興味あんの?」
「あんましない。穂高さんに限って下がるなんてことはないだろうし、聞いたら俺はこのブラックに身を預けるものとして会社の待遇に耐えれる気がしないから聞きたく無い」
俺よりも圧倒的に稼ぎがいいことは知ってるけど、数字として聞いたことはない。基本的に甘えっぱなしだけど、おにーさんが今からでも払えというなら俺は食費も光熱費も家賃も払うつもり満々だ。
そう意気込んでいるとふっと笑った気配がしておにーさんを見ると、その顔は嬉しそうに笑っていた。
「どぉしたの?」
「ほんといい拾いもんした」
「?」
「好きだよ誠」
「ッ!!!」
何がそうさせたのかわかんないけど、甘ったるい表情と声でそんなことを言われて、かあぁっと顔が熱くなった自覚がある。そんな顔を隠すようにおにーさんの肩にグリグリ顔を押し付けて、俺もと小さく返事をした。
すごくいい雰囲気をぶち壊すのは俺のお腹の音で、おにーさんは抱き締めていた俺を離して俺のぺったんこのお腹を眺めて、もう一度ぐうぅ〜となったお腹にくくっと笑って飯にするかと立ち上がった。
そう言っても時間が遅いせいで食べるのは俺1人だけど、おにーさんは俺の前に座ってどうでもいい話をちゃんと聞いてくれる。
「俺のお腹ってほんと空気読まない」
「続きは風呂上がりな」
「え?」
「今日はすっげぇ甘やかしたい気分」
「…………」
「ははっ、また赤くなった」
「もおっ!」
もおもおっ!
なんでだかものすごく機嫌のいいおにーさんは本当に甘やかしたいらしくて、お風呂あがりにドライヤーを持っていってみると何も言わずに頭を乾かしてくれて、抱っことねだるとすぐに抱き上げてくれて、言葉通りすごく甘やかしてくれたのだった。
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