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伊藤誠23歳、男。
拗らせ系男子に困っております。
人間関係を拗らせてきた人は俺が(残業に飲み込まれないのが)かっこいいと漏らせば赤くなり、なんでだか不思議なことになった。謎だ。
俺にキツイ態度をとった自覚はあるらしく、それでもなにも変わらないことが嬉しいとも言うけど勘違いだ。
『地味にひどい』
そう言った鈴木さんの言葉通りだ。
俺は仕事だからと、同僚だからと割り切っているだけで特別そうしているわけじゃない。そりゃ技術部の人は関わりが深いから同僚の中ではよく話す方だし仲はいいと思うけど、みんなそれだけだ。仕事を円滑に進めるなら、波風立てるべきではないと思っている。
そんな俺の気持ちを勘違いしてしまったらしい拗らせ系男子は俺が男だとかいろんなことをすっ飛ばしている。
今日1日でいうなら、昼休み前にそわそわと俺の周りに居たかと思えば今日は何を食べるんですか?とかオススメメニューってありますか?とか色々聞かれて、まあ俗に言う誘われ待ちだ。もちろん俺は誘わずに食堂に行き、端の方に座っていた阿川くんを押しのけて阿川くんと壁に挟まれてご飯を食べた。
休憩のタイミングが合えば話しかけてくれるけど、会話としてはあまり成り立たない。少なくても俺がキャッチする前にボールが飛んで来続けるから会話のキャッチボールは出来てない。
そんな田中さんに疲れ果てる俺に、他の技術部のメンバーは妙に懐かれたねと同情的な視線を向けてくる。相手が鈴木さんであったならばどうにかしなければと思うことでも、俺となると話が別で当然だ。
だけどこれは懐いてる訳ではないと思う。と言っても俺のことを好きなわけでもないと思うけど。
強いて言うなら、自分のことを受け入れてくれそうだと感じた相手が俺だったってことだ。
そんな拗らせ系男子はとことん拗らせている。
それを実感したのはゴールデンウイークの初日、祝日の朝だった。
「おはよぉ」
「誠、正座」
「へっ?」
「正座」
「?」
9時すぎなんていう、朝ごはんには遅すぎて昼ごはんには早すぎる微妙な時間に起きた俺は朝の挨拶するなり正座を求められる。
意味が分からず首を傾げていると苛立たしげにもう一度言われて大人しく床に正座して座った。俺、骨しかないからフローリングで正座って少し痛いんだよ。
「これ何?」
「?なぁにそれ」
「お前の服洗濯しようとしたら出て来た」
おにーさんがこれと言って持ってるのは白っぽい紙で、俺には心当たりが全くない。俺が昨日来てた服と言えば仕事に着ていった服と、洗おうと持って帰って来た白衣くらいなものでそんなものを入れていた記憶はない。
「お前宛」
「俺宛?」
「そう、要約するとデートしませんかってことだ。だいぶ頭危なくてちょっと笑いそうになったけど、笑い話じゃねえよな?」
「?????」
本当に分かってない俺は首を傾げておにーさんを見上げる。そんな俺にペラっと紙を裏返して見せてくれる。
ええっとなになに………
「あははっ、っ、なにこれっ、いやっ、ふふっ」
「頭大丈夫じゃなさそうなところはとりあえず目を瞑るけどさ。これ何?」
紙に書かれた詩的な文章に笑い転げる俺に冷たい声が降って来て、俺は慌てて姿勢を正す。
技術部のメンバーとして休みは把握されていて、明日休みなんですねとか、俺も休みで予定がないですとまあ誘われ待ちをしていたけどそんなのは気付かないフリをした。
だけど、拗らせ系男子なりに勇気を振り絞ったらしく置き手紙のようなものを俺の白衣のポケットに突っ込んだわけだ。今時手紙っていうのも驚くし、その中身もだいぶ頭がお花畑だ。
「誤解です!」
「それは疑ってねえよ。なんで言わねえの?」
「あ、良かった」
浮気を疑われたらどうしようかと思った。
もしもそうだったら俺は必死に弁明をするんだけど、してないことをしてないと証明することは難しい。それこそないものででっち上げるよりも難しいと俺は思っている。
と言ってもその必要はなかった。その代わりなんで言わないのかと怒っているわけだ。
「言ったって機嫌悪くするじゃん」
「確かに。けどそういう話してないよな?」
「………ごめんなさい」
論点をすり替えたくなる俺を許さないおにーさんはぴしゃりと言い放つ。
そう、機嫌が悪くなる、ならないじゃなくてどうして言わないのかと聞かれているから俺は質問に適した答えを言っていない。
「………穂高さんは独占欲が強いから」
「から?」
「………こぉいうの嫌かなと思って」
「まあ気分良くはねえけど。隠されてんのも嫌」
「………」
「つまりどっちにしたって俺の機嫌を損ねるわけだ」
それ、俺どうやっても詰むやつじゃん。
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