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今日出勤の技術部メンバーは俺と田中さん。内村さんも来てるけど、今日は他部署に予定があってほぼそっちに篭ると言っていた。 そんなわけで、この拗らせ系男子の相手をするのは俺しかいない。 おはようございますと言って入ってきた田中さんは、入ってくるなり連絡待ってたのに…と言ってくるけど俺1人なら多分気付かず洗濯してた。いちいちポケットの中身なんて気にしてないから脱いでそのまま洗濯する自信しかない。紙が入ってたことに気づいた時には散り散りで、それが何の紙だったかよりも紙くずがついた洗濯物をどうするかに悩まされていたに違いない。 「俺、日曜も予定ないです」 「俺は満載です」 おにーさんに甘えるという予定がわんさか詰まってる。 と言うか男らしくないなあ! デートに誘うならそんな誘って待ちをするんじゃなくてガシッと行け!そんで砕けて強くなれ。 それを繰り返すうちに砕けるか砕けないか何となく分かるようになる(多分)。 俺が女の子ならこんな待ってばっかの男よりも良いだろ?とちょっと強引に迫ってくる方が好きだ。と言うかおにーさんに甘ったるく、でも逃げられないように追い詰められるのが好き。 「伊藤さん、彼女さんとうまくいってますか」 「はい?」 「横恋慕があるときは大体カップルは揉めるそうなんです」 「どこ情報か知らないけど、問題ないです」 「………伊藤さんってずるいですね」 「はい?」 「人のこと弄びすぎです」 いやいや、どこが? 俺は残業しない精神がかっこいいと言っただけでそれ以上のことは言っていない筈だ。そして態度が変わらないのは同僚だからであって特別だからじゃない。 そう言ってもこの拗らせ系男子は分かってくれそうにないけど。 そして横恋慕があるときにカップルは揉めやすい。 どこ情報かは知らないけど、上手いこと言うもんだ。横恋慕があるから揉めるんじゃなくて、揉めたから他所がよく見えると俺は思ってる。 自分の恋人に持ってて欲しかったものを持ってる他の人が居て、それがよく見えるんだと思う。それが一時のまやかしな人もいれば、それが恋に変わる人もいる。俺は揉めた時ほど、相手のことをちゃんと見たいと今は思う。 彩綾の時のように疲れてるから時間がないからと言葉足らずに甘えて、おにーさんを失うようなことはしたくないのだ。 「今日って食堂開いてますか?」 「ゴールデンウイークの間は休みですよ。だから外に食べに出るか持ってくるかしてる人がほとんどです」 「………」 そんなチラチラ見なくても言いたいことは読める。 大方一緒に食べに行きませんか?誘ってくださいって所なんだろうけど食べに行かないし誘わないです。 「俺、お弁当持ってきてるんで」 そう、今日はお弁当持参だ! もちろん作ったのはおにーさん。ゴールデンウイークは食堂やってないんだあと話した覚えはあるけど、作って欲しくてそう言ったわけでもなかった。どっちかというと食堂に勤めてたら休みだったのかという羨ましさが大半を占めていた。 今朝、俺は休みだからなんて少し言い訳じみたことを言いながら渡してくれたけど、これは俺の胃袋を掴みに来てると見て間違いない。もうすでにがっつり掴まれてるのに、これ以上掴まれたら俺の胃袋がキュッてなる。 だけどすごく嬉しくて、残さず食べるねと喜んで受け取って持って来たのだ。 しょんぼり、と書いてそうな田中さんを放って仕事に取り掛かった。 うちではそれぞれが持ってる案件ごとにいる場所が違うなんて当たり前だから、俺は今日もX線室にこもる。俺にはこれが絡んだ案件か試作案件ばかりだから技術部にいないときはX線室か大型にいることがほとんどだ。 田中さんに基礎検査だけの依頼を数件渡して、あとでチェックはするからお願いしますと言って俺も度々席を空けた。 待ちに待ったお昼休み、10分ほど検査で食い込んでしまったけどお昼ご飯は無事に食べれそう。 いただきますと手を合わせて包みを開ける。 さすがおにーさん。俺のことをよく分かってる。 子ども向けのお弁当をそのまま大きくしたような中身で、ウインナーはご丁寧にタコさんになっている。 人が疎らな食堂でニマニマお弁当を楽しんでいると、少し息を切らせて田中さんが前に座って、俺のお弁当を見て驚く。 「うわっ、綺麗」 そりゃそうだ。 あのおにーさんが作ってくれたんだからと俺が褒められたわけでもないのに心の中で踏ん反り返る。 「俺、家庭的な人っていいなと思います」 「…………!?」 「伊藤さん料理が上手なんですね」 「付き合ってる人が持たせてくれたやつだから!俺じゃないから!」 俺がこんな丁寧なお弁当を作れるはずがない。タコさんウインナーなんて絶対に作れない。足が細くなって切れて、バラバラ殺人のようなタコさんウインナーになることが保証できる。 ガーンと固まったように見えるけど俺は知らない。 家庭的な人がいいなら俺はやめた方がいい。ズボラなことこの上ないし、料理は出来なくはないけどごくごく人並み。掃除は気が向いたらやる程度で、洗濯は回せばオッケー!一緒に回しちゃいけないものや洗剤を変えた方が良いものなんて分からない。洗うものによって洗剤を変えるなんておにーさんと暮らすまで知らなかった。 「え……一緒に住んでるんですか?」 「まあ、はいそうです」 最初は同居(?)だったけど、今はお付き合いもしているし同棲だと思う。 そもそも田中さん、俺は優しいんじゃなくてどうでも良いからこの態度なんだって気づくべきだと思う。 俺は空気を読むという大切さを田中さんを見ていると改めて感じるようになっていくのであった。

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