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ああ、この人は酔ってるんだろうか。 いやそんなはずはない。 まだ太陽の高い真昼間だし、なんなら職場に来ているわけだし、午前中はごく普通に仕事にしていたと思う。まあ俺も自分のやることで席を外してたこともあるけど、出来たと持ってきてくれた量から考えると普通に仕事をしていたと思う。 「手紙くらい受け取ってください」 「困ります」 「1回くらいデートしたっていいじゃないですか」 「浮気になります」 「無理やり拉致しますよ!?」 「それはデートじゃないですね」 はああ。 人が少ないせいかお昼を食べようもしてと絡まれる。これがまた酔っ払いのからみ酒のようにめんどくさい。 同じ言葉を何度も繰り返してまた戻ってやり直し、この人頭良いはずなんだけどいけてる? いけてないか。 「俺、ほんとに優しくないですよ。もしクラスメイトだったなら迷いなく関わらないことを選んでます」 「何でですか!?」 何でって言われてもなあ。 学歴でマウンティングする人と友達になってもマウンティングされてばっかでやだし、暴走しがちだし、自分の気持ちもよく見えてない人と関わったって疲れそう。 「なら違うお願いをします」 「………なんですか?」 「俺も出張に連れて行ってもらえませんか?」 これは、俺の独断で断れないやつ持ってきたな。 流石に頭が回るのかなあ。 野田さんに聞いておきますと言うだけ言って、どうか野田さん断ってと心の中でお願いをした。 目の前にいる田中さんは見ないことにして、朝から楽しみで仕方なかったお弁当を開ける。 おにーさん、俺のことどんだけ子どもだと思ってんの。俺もう23歳(男)。 「ふふっ、美味しそぉ」 お弁当の中身はオムライス。 なんでかわからないけどオムライスに海苔で顔が作られていて、思わず笑ってしまう。おにーさんってこんなことするんだ。 もちろん端にはブロッコリーやトマト、ハムに巻かれたポテトサラダなんかも入っていてすごく美味しそう。ちょっと子どもっぽいけど。 「いただきますっ」 早速オムライスをパクッとひとくち。 やっぱり美味しい。んんっと幸せに浸っているとじっと俺を眺める田中さんに気づく。 「あげませんよ」 「そうじゃなくて。伊藤さんって、表情コロコロ変わって可愛いですね」 「……………」 「褒めてんのに落ち込まないで貰えます!?」 落ち込むというか複雑なんだよ。 なんでだろう、田中さんをうっかり褒めないように俺がいくら気をつけてみても顔まで気を付けなきゃダメ? でもこんな美味しそうなご飯を前に緩む顔を引き締められるはずもない。 「………いいなあ」 「あげませんよ?」 「お弁当じゃないです」 なんだ、よかった。俺のお弁当が狙われたのかと思った。 ブロッコリーやトマトにマヨネーズないなぁと思っていたのに、お箸で掴んで持ち上げるとマヨが付いていて細やかな気遣い!と心の中で賞賛を送りながらあっという間に完食した。 「伊藤さんは家庭的な人がタイプなんですか?」 「うーん………」 多分、そうでもない。 おにーさんがタイプだったのかと言われたらそうでもない。そもそも俺の恋愛対象は間違いなく女の子だった。それがあまりの忙しさに色々とやられて男の人に飼われるということになったわけだけど、終わり良ければすべて良しだ。約1年経とうとしてるけど、あの日おにーさんに縋り付いた自分を今でも褒めてあげたいと思っている。 「好みのタイプって当てにならないです。今好きな人は家庭的だってだけで、そうじゃなかった子も居ます」 タイプなんてなんだって良いのだ。 大事なのは俺がおにーさんを好きだということ。

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