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プライベートな質問を適当に躱しつつ、田中さんと2人きりの仕事を終えて、さらに1人で1日働いてようやくやって来た俺のゴールデンウイーク!(2連休) どこに行こうかなあなんて考えていたけど、特別どこかに行かなくても一緒に過ごせるならそれで良い。そうしてゴロゴロと日曜を過ごし、月曜日はお出掛けに誘われた。 「誠、ちょっと買い物行くけどどうする?」 「どこ行くの?」 「コーヒー切れた」 「行くっ!」 「フレンチトーストな」 「うん!」 どうやら休みで思ったよりも消費しているらしい。 俺が居ない日をどう過ごしてるのかは分かんないけど、俺が居ても日に数杯は飲んでるおにーさんだから手持ち無沙汰で飲む量が増えていてもおかしくない。 いつもコーヒー豆を買いに行くお店は俺が大好きな厚切りフレンチトーストがあるから誘ってくれたわけだ。俺はるんるんと出掛ける用意をした。 ゴールデンウイークと言うこともあって、喫茶店も少し混み合ってはいるものの問題なく座れた。コーヒー豆の注文したおにーさんと席に座って、お店でコーヒーとフレンチトーストを頼んだ。 食べるの久しぶりだなあっておにーさんの前でにこにこ笑って話していたのに、おにーさんは驚いた顔をして、その後ため息をついた。 「どぉしたの?」 「いや、仕方ねえよ。ここでコーヒー買うのは俺だけじゃねえし」 「?」 はあと息をつくおにーさんに首を傾げていると、なんだか聞き覚えのある声が話している。 何か飲んで行こう? はあ?なんで2人で入るんだよ 誰も気にしないって、あそこも男2人………あれ? どうした? なんか見覚え……あるような? そんな声が聞こえた後、兄貴!?という声と伊藤くん?という声が一緒に聞こえた。 きょとんと振り返ると居たのはミホちゃんと阿川くん。 「………でー「喋ったら殴る」 そう言われて秒で黙った俺はおにーさんに向き直る。 まだ店に入るか揉めてそうなミホちゃんと阿川くんは放っておくとして、おにーさんに尋ねる。 「ミホちゃんもここの常連さんなの?」 「ああ。ついでに言えば父さんもな。穂波も一人暮らし始めたら来るだろうな」 「へえ、みんなコーヒー好きなの?」 「かなり」 だから一人暮らしを始めてもインスタントじゃなくてわざわざコーヒー豆を買うんだね。 「どうしてこのお店なの?」 「ここのブレンドが1番慣れてるからだろうな。何も考えずにブレンド頼んでも季節にあったものをくれるから安心」 「コーヒーに季節があるとは知らなかった」 「誠はその辺分かってねえもんな」 「うん」 全然わかんない。俺にとってはどのブレンドも苦い飲み物でしかないと思うからこだわりはない。カフェオレにして貰えるならなんでも良い。 そんな話をしていると頼んだ飲み物やフレンチトーストの前にミホちゃんがやって来て、どかっとおにーさんの隣に座った。もちろん俺の隣には阿川くんが座ったけど、なんで? 「なんでここに座るんだよ」 「兄貴と誠くんはなんでここに2人で座れるわけ?」 「「?」」 俺とおにーさんは顔を見合わせて意味が分からずミホちゃんを見返す。ミホちゃんは頭をガシガシと掻いてああもう!と苛立たしげな様子で俺は無理と項垂れた。 「阿川くん、どういうこと?」 「ミホちゃん、慣れてないから」 うん?何が?と思ったけど、すぐにミホちゃんが何も言うなって赤くなって言うもんだからなんとなく察した。 「阿川くん良かったね」 「ありがとう」 そっかぁ。 あれからどうなったのか全然聞いてないけど今はこうして休みの日にデートする仲になったわけだ。それは良かった。 「ミホちゃん、頑張ったね」 「………」 「穂高さん、ミホちゃんが照れてる」 「俺もあんまこういう顔は見ねえな」 「見世物じゃねえよ」 悪態ついててもそんな赤い顔してたら全然怖くない。 おにーさんに視線を移すとおにーさんは隣に座ったミホちゃんを見てどこかホッとしたような、安心したような優しい顔をしていた。 おにーさんはお兄ちゃんだから、きっと内心では弟のことを心配してたんだろうなぁと思う。かと言って口出ししてもどうにかなる問題でもないからずっと見守ってたんだろうなぁ。いいお兄ちゃんだ。 「伊藤くん」 「うん?」 「この人がミホちゃんのお兄さん?」 「そぉだよ」 「伊藤くんの飼い主……?」 「今は付き合ってるよ」 「なんで言ってくんないんだよ」 「散々俺を巻き込みながら今日まで2人がデートする仲になってたことを知らない俺にそれ言う?」 この2人……と言うより阿川くんには散々付き合わされたのだ。そういうとバツが悪いのか阿川くんは苦笑いを浮かべて話を変えた。

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