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しばらく話すうちに待ちわびたフレンチトーストがやって来て、一応食べてもいいか確認をしていいよと言われたから1人食べ始める。
じゅわぁと溶けたバニラアイスに甘い匂い。たまにしか食べれないこのおやつは絶品。
完全に匂いに釣られたらしい阿川くんは持って来てくれた店員さんに同じものを頼んでいて、ミホちゃんはアメリカンひとつと言っていた。おにーさんもここで飲むならアメリカンだし、育った家が同じだからか嗜好品の好みも似ているらしい。
「穂積もコーヒー切らしたのか?」
「そろそろ無くなりそうだし、次の休みは予定あるから」
「へえ。ここで会うのは初めてだな」
「確かに。兄貴も結構来てるだろ?」
「ああ」
2人してコーヒーばっかり飲んでたら寝れなくなるよ。
寝る前に飲んでて普通に寝れるの意味わかんない。
けどそんなことどうでも良くなるような意味わかんないことを言い出す人が隣に居た。
「伊藤くん、穂積ってミホちゃんの名前?」
「知らなかったの?」
「知らなかった」
「なんて名前だと思ってたの?」
「なんとかミホちゃん?」
「名字も知らないの?」
「………」
大丈夫かこの2人!
男でミホって名前ってそうそうないと思うよ。
多分付き合うことになったらしいのになんでそこ聞かないの。名前と付き合うわけじゃないし、2人がなんで呼び合ってても別にいいとは思うけど……。
「ミホちゃん、名前聞いてもいい?」
「今更?夏目穂積だよ」
「穂積くん……」
いや、ちょっと。
横でピンクい空気流さないで欲しいんだけど。
「つーか阿川の名前は?」
そっちもかよ!
ああダメだ、この2人に突っ込んでたら俺のフレンチトーストが冷める。ここは気にせず食べよう。
「雄大」
「へえ、まあ阿川でいいか」
「なんで!?」
「慣れてるから」
阿川くんは名前でいいよと詰め寄るけど、ミホちゃんにうざいとひと蹴りされたらしかった。ミホちゃんの蹴りって痛いよねと思っていると、おにーさんが口を挟んだ。
「穂積は恥ずかしいだけだから」
「兄貴!」
「特に今は俺と誠がいるし余計だろうな」
どうやら図星のようで言い返さずに俯くミホちゃん。
これは………
「可愛い」
あれ?俺まだ口に出してないよ?
隣を見ると阿川くんがさっきよりもさらにピンクな空気を出していてもう俺はついていけない。
「穂高さん、俺カフェオレじゃなくてアメリカンにしたら良かった」
「そうだな。今日この店はちょっと甘いな」
「うん」
そうは言ってもフレンチトーストは相変わらず美味しかった。ほっと一息つきながら阿川くんが食べ終わるのを待ち、お会計でまた一悶着。
俺とおにーさんは揉めることはない。財布はきちんと持ってきてるしお金も入ってるけど、財布を出すだけで怒られるからありがとうと精一杯のお礼を言う。
どうしても割り勘にしたい時やご馳走したい時は前もって言ってから食べに行くことにしている。
ところがこの2人は違うらしい。
割り勘にしようとした阿川くんを止めて払おうとしたミホちゃん。こんなところまでそっくりかよ!って思ったのは俺の秘密だ。
そんなミホちゃんを制してなら俺が払う!と言い出す阿川くん。
レジの前だというのにぎゃあぎゃあ騒ぐ2人。
「うるさい。お前らさっさと出ろ、迷惑だ」
そう言って伝票を奪って4人分の会計をしたおにーさんがミホちゃんと阿川くんを叱る。
「割り勘しようがどっちが出そうがなんも言わねえけどレジの前で騒ぐな」
言ってることは間違ってないと思うけど、なんでおにーさんが全部払うの?
いきなり彼氏のお兄ちゃんに出会ってご馳走されてしまった阿川くんの顔が真っ青だから。
フレンチトーストとコーヒーの一杯くらいでケチケチいうおにーさんじゃないけど、そんなの知らない阿川くんはオロオロしている。
「ラッキー。コーヒー豆の分まで払ってくれてんじゃん」
「ったく、お前なあ」
「また誠くんの髪切りに行くからそれで勘弁して」
「はいはい。もうレジ前で揉めるようなことすんなよ」
「分かってるよ」
それだけ話すとおにーさんは行くぞって俺の手を引っ張って歩き出す。引っ張られるように歩く俺は、ミホちゃんに頑張ってねとガッツポーズを送りながら2人とバイバイした。
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