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そんな話をしたからか、にこにこ機嫌よく研究室に戻った俺を教授が不審そうに見ていたけどそれも気にならない。 もう俺には彩綾が幸せになることを願うしかできない。そして彩綾を笑顔にしてくれるのが牧くんなら、安心して任せてもいいかなと思える。上から目線なのは今だけは大目に見て欲しい。 そうして測定を終わらせて、教授にお礼を言って研究室を出る。もう遅い時間で学生課は閉まっている時間のはずなのに来客(俺たち)がいるから彩綾が待っていてくれた。 「ありがと」 「いいえ。私こそ話聞いてくれてありがとう」 「いいよ、そういう話なら」 「今度は誠の話も聞かせてね」 「ええー」 彩綾が持っていた紙に記入して来客の札を返す。彩綾はこれを片付けるからとバイバイと笑って手を振って奥に消えていく。 晴れやかなその顔を見て、俺は牧くんに会った時お礼を兼ねてとびきり美味しいものをご馳走しようと決意した。 それから駅に向かって歩いていると、田中さんに今でも仲がいいんですねと言われた。それは本当にそう思う。彩綾が振り切れたからなのか、付き合ってた頃とはまた違う、だけど信用のおける関係ではある。 彩綾は自分の悩みを友達に話すことはあっても、俺が男の人に飼われてる(今は付き合ってるけど)とかそんなことを言いふらすような子じゃないことはよく知ってる。たぶん逆も然りだから、今はこういう関係になったんだと思う。 「………なんだか見せつけられた気分です」 「そんなつもりは全くないよ」 いちゃついてすらないのに見せつけるも何もない。 ため息をついて歩き始めた俺に待ってくださいと言いながらついてくる田中さんを俺はどうしたらいいんだろうか。 帰りの電車は静かなもので……と言えたら良かったんだけどそう上手くはいかない。 「夜ご飯でも食べていきませんか?」 「作ってくれてるんで家に帰ります」 「出張なのに!?コミュニケーション取りましょうよ」 「田中さんにコミュニケーションを指摘される日が来るとは思いませんでした」 技術部は仲が悪いわけではないけど、俺が働いて1年。 一度だって技術部だけで飲みに行こうかなんてなったことがない。それはきっと、みんな早く家に帰りたいし、何より全員がお酒にめっぽう弱い。会社としての強制イベントだけでいい。 「伊藤さんってお酒強いんですか?」 「いいえ。技術部はみんな弱いですよ」 「なら酔い潰して持って帰っていいですか?」 「良くないです!!!」 なんて発想! 半ば犯罪みたいになってるよ! それ拉致、もしくは誘拐っていうと思う!そして俺に何する気! 「………田中さん、ちゃんと考えたほうがいいです」 「?」 「仕事だからって割り切ってるのを優しさと思ってたら、これから何人好きになる気ですか」 「嫉妬ですか?」 ああもう! 会話して!俺と会話のキャッチボールをして! むしろ次が現れてくれたら俺は楽かなとも思うんだけど、それが女の子だったらと思うとこのままの方がマシな気がする。女の子を酔い潰して持って帰るなんて絶対にしちゃいけない。 「伊藤さんは懐かない猫みたいですね」 「俺は自他共に認めるほどには人懐こいタイプですよ」 「え?」 「田中さんとは仕事上の付き合いしかする気がないからこうなだけです」 最初っからプライベートだったおにーさんには最初から縋り付いて泣いた。その後も事あるごとに泣きついては慰められて、宥められてやって来ている。 だけど職場の人に甘えたりはしない。技術部でも、社全体としても若手なほうだけど、若いからと出来なくて当たり前にしたくない。 「プライベートに踏み込んじゃダメですか?」 「ダメです」 「俺、考えたんです」 嫌な予感。聞きたくない。この人は何を参考にしてるのか分かんないけど思考回路が読めない。頭はいいはずなのに人間関係のことになると途端に弱いこの人だから何を言い出すか怖くって仕方ない。 「押してダメでも押してみます」 「そこ引くところだから!押してダメなら引いてみろって言わない!?」 「伊藤さんは引いたって追いかけてくるタイプじゃないですよね?それなら押すしかないと思うんです」 「あの、やめません?俺男だし、恋愛対象は女の子がいいなって思います」 棚上げが酷いとかブーメランなんて言葉は今は聞こえない。 恋愛するなら女の子とが良い。 他人にはそう言っても、俺はおにーさんとの関係をやめるつもりはないけど。 「揉まれるべきです。ぶつかって砕けて、いろんな人と関わって見つけるべきです。でも、そうやってもやっぱり俺がいいってなったなら……」 「なったなら?」 「その時はきちんと振ってあげます」 今だって気を持たせてキープしようなんてそんなことしていない。これまで人間関係をやらかしてきたからこそ、仕事上の付き合いを勘違いするほどに人付き合いに慣れていないだけ。だから、色々と揉まれてきて欲しい。 もしそれでも俺が好きだという結論に至ったなら、その時は木っ端微塵に振ってあげよう。

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