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そうして出張が終わり、週が明けて俺は知らなかった問題に直面することになった。
「伊藤くん、手が空いてたら大型に依頼したもの取りに行ってもらってもいい?」
「俺ですか?」
「うん、俺今手が離せなくて」
それは、見たら分かります。
今野田さんが手を離したら野田さんと鈴木さんが目を凝らし、肩をパンパンにさせながら作ったものが崩れ去る。
おかしいなあと思いながらも分かりましたと返事をして大型に様子を見に行く。
そう、最近ではこうしてものを取りに行くのは田中さんが行ってた。それは技術部として様々な部署を知るって言う意味合いも兼ねていて、去年の俺もこの時期はいろんな部署をたらい回しにされていたっけ。
「こんにちはー!」
「あれ、伊藤くん?」
「はい、野田さんが依頼したものってどうなってますか?」
「はぁ、伊藤くんでよかった。ごめん、あと1時間くらいで上げれるんだけど」
「分かりました!俺、今手が空いてたんで何か手伝って待ってます」
「良いの?」
「はい!」
「だったらこれ直せる?」
と渡されたのは扇風機。
「暑いんだけどここじゃエアコン意味ないから。けど動かなくなっちゃって」
ここ、大型の部署は広すぎてエアコンは付いていない。
大きな部品を入れるために全面シャッターが付いていて、納品や出荷の際は全開しているためすぐに空気が流れるってことでエアコンではなく個人個人が扇風機と移動したりしている。
大型ではこの事務室だけがエアコンの効いた天国だ。
事務室と言うよりは休憩室みたいになってるけど、倒れる前に休むことが大事。
そうして扇風機を預かって、ごそごそと必要な道具を集めて修理に取り掛かる。年代物の扇風機は断線しただけだから繋ぎ直せば問題ない。
「あ、伊藤くん来てる」
「薄情者の阿川くんだぁ」
「………今日は田中くんじゃないんだ」
「なんか野田さんに頼まれて」
「まあ仕方ないか」
「何かあった?」
せっかく休憩に来ただろうに申し訳ないなと思うけど、俺が感じた違和感は気のせいではなさそうだった。
「田中くんが取りにくるとこっちがピリピリするんだよな」
「うん?」
「まだ出来てないんですか?って言ってくるんだよ。ちゃんと依頼書に今日の何時って書いてますよね?とかまあ………そのな?」
「大変申し訳ございません」
「伊藤くんは悪くないって。ただ、こっちもそれだけを仕事にしてるわけじゃないんだよ」
「はい、知ってます」
むしろ俺たちが使うんだから(しかも大方作ってもらっては壊していく)、俺たちが作っても良いほどだ。だけど技術部は慢性的な人手不足と過剰な検査依頼にアプアプしてることも多々あって、すみません!と頼み込むことも少なくない。
もちろん製造さんには製造さんの予定があるから、その中で無理言って作ってもらってるわけだから多少遅くなってもそんな風に言ったりはしない……んだよ。
俺を含め、野田さんも内村さんも鈴木さんも。
むしろ頼んですみませんと謝ることの方が多いくらいだ。
だけど拗らせ系男子は違うらしい。
頼み込んでる立場なのに責めるなんておかしい。それに、俺は一通り製造の過程を知ってるから分かるけど、野田さんが頼んだ日から今日までの日数、そして依頼している加工内容を考えると急ピッチで進めてくれたことがわかる。
野田さんがどのくらい急いでたのかは分からないけど、加工内容と納期が本当にギリギリのパツパツ。
「野田さんかなり急いでたみたいで、ものすごい頼み込んでた」
「みたいだね」
「こっちも技術部の忙しさは知ってるから多少の無茶は努力するんだよ」
「はい」
「けど、やっぱそれだけやってるわけじゃないから他との兼ね合いもあるわけ」
「はい」
「それをなんで出来てないんですかって!俺らだって必死にやってんだよ!」
「はい、大変申し訳ございません」
俺が怒られるのはどうにも納得は行かないんだけど、会社の中で考えるとあれでも俺の後輩に当たる。そうなると部下(?)の不始末ということで俺が怒られるのも仕方がないと受け入れる。
「もしかして、野田さんってまたこれに頭を痛めてるんじゃ?」
「たぶんな。どうも他の部署でも同じ感じらしくて、今度部長会議があるらしい」
「野田さん、倒れなきゃ良いけど」
技術部で何かあるとその部長である野田さんの責任問題にもなる。技術部内で何だかんだどうにか回り出した田中さんは、まだ社内という意味では全然溶け込めていないらしい。
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