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「すみません!本当にすみません。あとどのくらいかかりそうですか?」 「………30分もあれば」 「分かりました。いつも急ぎでお願いしてしまって本当にすみません」 「………はあ。いや、良いんだよ。取引先でこれが割れたらしくて、野田さんが原因追求してくれてるんだよ」 「そうだったんですね」 割れるなんて大問題だな。 何が原因で割れるのかしっかり調べないといけないのは技術部じゃなくてもわかるだろうから、きっとここの人は多少無茶な納期を言われても最大限答えようとしてくれているわけだ。 製造さんは未だ苛立った様子で現場に戻り、俺は田中さんに視線を移す。こちらも苛立った様子でため息が出る。 「どうして伊藤さんが謝るんですか」 「田中さんはこれ作ったことありますか?」 「無いですよ。だって俺は製造部の人間じゃないですし」 「俺はありますよ。他の仕事がなくてもこの納期なら俺はたぶん作れません」 「?」 「文句を言うならやってからです」 もし、田中さんがこれを納期通りにバッチリ作れるなら、他の仕事をこなしつつもやれるなら文句を言ったって良い。俺は出来ますよ?ってドヤ顔で見下しても、相手は言い返すことなんてできない。そう、それが出来るなら。 「伊藤さん、どこか俺たちが手伝いに入れそうなところありますか?」 「今だったら1番工程かな」 「ありがとうございます。着替えてすぐに入ります」 1番工程、ここは粉塵舞い散るひどい環境だ。 納得してなさそうな田中さんを連れて着替えてそこに向かう。入った瞬間からばしばしと粉塵が体に当たり散らして少し痛い。 手伝いますと言えばちょっと傾けて!だのもう少し右に!だの色々と注文が飛んできてそれに答えて動き回る。ここではどれだけ暑くても厚手の長袖も顔を守るマスクも欠かせない。でないとこの粉塵に肌がやられてしまう。 まだ5月だと言うのにこの暑さ……そしてこの大きさ。 改善したい環境であるはずなのに、これ以上どうしようもない。扱うものが大き過ぎて、どうしても人の体力を犠牲にするこの方法が1番効率が良かったらしい。 「い、伊藤さん?何してるんですか?」 「田中さん、そっちちょっと持ってもらって良いですか?」 「え?ええ?」 「早くっ」 「え………あ、はい。っ!?重っ」 そりゃ重いよ。 この大きさだ、いくら材質がアルミと言えど重い。 そしてアルミだからこそ、ものすごく繊細な仕事が求められる。うっかりやりすぎるとすぐ穴が開くのだ。 これが鉄だと重くて重くてどうしようもないから人力じゃなくて機械を使ってやる。だけど多少やり過ぎても問題無いから楽でもある。 そうして10分近く粉塵に打たれたところで一度出る。 「伊藤くんがここに入るの久しぶりだな」 「はい、久しぶりです」 「今度打つ?」 「材質がアルミなんで遠慮します」 「それが良いわ。ちょっと休んだら粉替えて仕上げするんだけど、良い?」 「はい、大丈夫です。こき使ってください」 「そっちは大丈夫か?」 俺の後ろにいるはずの田中さんを見てるであろう視線を追うと、ぐったりと座り込む田中さん。どうやら体力はないらしい。 「田中さん、大丈夫ですか?」 「15分くらい休んだらもう一回はいりますからね」 もう無理と首を振ってるけど、そんなの知らない。 野田さんが頼んでいるものはサンプルだからここには入らないけど、本来の製品であればここに入っていたはずだ。 こうして身体中を粉塵に打たれる苦労も、加工するときとんでもなく暑いことも、ちゃんと知るべきだ。 喋れないらしい田中さんを置いて事務室に行き、ウォーターサーバーから水を貰う。 「涼しい〜、天国〜」 「ふっ、っ、すみま、せんっ」 「堪えきれてなさすぎるよ」 「すみ、ませんっ」 生き返るぅ〜と呟いていると笑いを堪えた笑い声が聞こえて、原田さんが口を押さえて笑っている。 「ここに水飲みに来る人って、だいたいそんな感じでつい」 「あー、言われてみるとそうだね。ここ暑くって」 「たまに事務室を出るんですけど、やばいですよね」 「うんやばい。あのさ、すっごく話変わるけど田中さんって同期にいつもあんな感じですか?」

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