185 / 435

185.

さっきのすれ違い様に見た様子は酷い。 あんな風に威嚇、というか威圧しまくる同期は嫌だなあと思う。少なくても俺の同期はそんなことする人はいない。 「初めはそうでもなかったんです」 「ほぉ」 「内定式やその後の親睦会で顔を合わせる機会はあったんです。その時はちょっと変わってるなってくらいで普通に話してくれました」 「いつからあんな感じになりました?」 「入社式の日です」 入社式、つまり翌日から技術部配属と言われてからってことかな。 「製造や事務よりも、技術部の方が上だから……」 学歴マウンティングの次は部署かぁ。 と言うかどうして何でもかんでもマウンティングするんだろう。そんなの意味がない。 どうやら入社以降、田中さんと他の同期の関係はピリピリとしたままらしく、他部署だけでなく同期ともやらかしてることを知ってしまった。 そうして少し休憩をして1番工程に戻ろうとするとさっきの場所でしゃがみ込んだまま動かない田中さんが居た。 「多分そろそろ次やると思うんで立って下さい」 「………俺は遠慮「なんてしなくていいです。立って下さい」 ほらちゃんと服着て!マスクも付けて!とビシビシと用意をさせていると製造さんが来て、大丈夫か?といった視線を向けられて大丈夫ですと大きく頷いた。 まぁ実際は全然大丈夫じゃなかった。それは俺も製造さんも分かっていて、もう一度中に突っ込んで粉塵シャワーをお見舞いしてから外に出してあげた。俺はそのまま最後までお手伝いをしたけど、田中さんは俺が出てきてもまだぐったりと座り込んでいた。 その後も、野田さんのサンプルを届けに行った時以外は定時までびっしり大型でお手伝いをさせて貰った。 「田中さん、シャキッと歩いて下さい」 「…………」 「明日もまだまだ回りますよ」 ゾッとした顔で俺を見て、無理ですと小さな声が聞こえた。無理じゃない、やるんだよ。 というか体力なさ過ぎ。 「あの、これいつまで続くんですか?」 「全部署全工程終わるまでですよ」 「………」 「遅いという権利があるのはその状況でやりきれる自信がある人です。そんなこと出来ないのに、ただ立場として上だからってだけで押し付けるようなことは俺は大っ嫌いです」 自分たちの立場が上なのは分かってる。 でもそこに踏ん反り返るようなことはしたくない。 そもそも今回、野田さんのサンプルはいくら事情があると言っても本当にゆとりのない納期だ。むしろ数時間遅れでよく作ってくれると関心すらする。 「大型の人は毎日あそこに入ってます。材質が鉄になればもっと風圧も粉もきついものを使うんで今日よりももっと痛いです。俺たちと違って、事務室以外にエアコンのないあの環境でずっと作ってくれてるんです」 「どうして技術部にOJTが無いか考えたことありますか。製造部よりも上だからじゃ無いんです。製造部に行く機会が多いから、OJTをしなくても勉強する機会がたくさんあるからだと俺は思います」 配属が決まればほぼそこから動かない製造部、事務部、営業部と違って技術部だけは仕事上いろんなところに出入りする。自分でできなきゃ不便なこともたくさんあるから、そこで必要に応じて勉強をさせてもらっていく。 去年、俺がどこかに行くとその部署の誰かしらが気にしてくれて困っていると助けてくれた。 それは今でも変わらない。 「明日も大型ですか」 「そうですね、まだ2番工程と4番工程はしてないし、検査もやってませんよ」 「………」 「ここの検査は大変なんです。サイズが大きいんで仕方ないですけど。けど、検査をしたらわかります」 「何がですか?」 「ここの人がどれだけ丁寧に仕事をしてくれているのかが分かります」 田中さんは苦虫を噛み潰した顔をしているけど、そんなの知らない。野田さんが終わりと言うまで、俺は製造部の大変さを教えて行こう。 文句を言うなら、それからだ。

ともだちにシェアしよう!