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187.おにーさんサイド

誠の様子が変だと感じたのは、夜中に感じた体温のせいだった。 俺にも仕事があるし、平日は夜11時頃には寝るように心掛けている。それもあって、誠があまりにも遅い日は会う前に俺が寝るなんてこともよくあることだった。 いつもなら静かにベッドに入ってきて、程よく近いところで寝ているはずの誠。甘えたな癖に気を遣える誠が、寝ている俺に抱きついてくることはたぶん無かった。 数日続いてその体温にうっすら意識が浮上するも、くっついてきた体温はすぐにすうすう寝息を立てるから俺もそのまま寝た。 誠がこうして甘えてくるんだから、多少起こされていたとしても何も言わずに過ごそうと決めていた。 そして週末。 誠が甘えたかった理由を知る。 つーか誠のところに入った新入社員くせ強すぎるだろ。うちの会社じゃまずやってけねえなと感じる。そんな奴を取引先に会わせるなんて絶対にさせたく無い。 ついでに知ったのが、誠がやらかしたと言うこと。 誠が泣いて帰ってくることはあるけど、出張が嫌だとか早く帰りたいとか仕事に殺されるとか、そんなことも言わずにただわんわん泣きまくってたことが一度だけある。そんなことは初めてで、俺はどうしたら良いか分からずにただ抱き締めて、背中や頭を撫でてやるくらいしか出来なかった。 いろんな人が誠に手を貸してくれたのは、なんとなくこいつにはほっとけない何かがあるからだろう。基本的に笑っていて、素直に言うことを聞いて、反抗的じゃ無いその姿は部下としても育て甲斐があって可愛いもんだと思う。 言ったことを素直に吸収して、相手のことも考えつつ立ち回るのは誠の強みだろう。 そうして俺が少し考えているうちにお腹が空いたらしい誠がキッチンに入り込んで叫ぶ。 「わぁい!今日カレー!?」 「そう、カレー。エビフライかトンカツどっちが良い?」 「トッピング?」 「そう」 どっちにするか悩んで、エビ3匹とトンカツ用の肉を1枚買ってきて下拵えは済んでいる。あとは誠にどっちか選ばせるだけなのに、こいつはやっぱり予想もしないことを言う。 「うーん………ハーフアンドハーフで!」 「ピザかよ」 「どっちも捨てがたいもん、ダメ?」 「まあ良いけど」 「やったあ!俺も手伝う」 「今日はダメ。今から揚げ物するから大人しく座ってろ」 はぁいと言って大人しくダイニングに座って色々と話しているけど、大体は愚痴だ。そもそも1人にさせておけない新入社員なんて人手が増えたんじゃなくて減ったも同じだ。そいつにかかりきりな分できない仕事や後回しにする仕事が発生するはずだし、まあその結果誠の帰りも遅くなってるんだろう。 誠はそこに気付いているのか気付いてないのかは分からないけど、誠は自分の帰りが遅くなったこと以上に田中さんとやらの態度が気になって仕方ないらしい。 そんな話を聞きながら用意を終わらせてダイニングにカレーとサラダを並べると誠がやったぁ!と喜ぶ。 「卵入りのマカロニサラダ大好き!」 「知ってる」 「やったあ俺の好物ばっかり!どうしたの?いいことあった?」 「いいや?お前が甘えたそうだから甘やかしてみただけ」 「もおっ!俺がどんどん穂高さんに依存するじゃん」 それで良いんだよ。 せっかくこんなにいい子に育ってんのにわざわざ手離さねえよ。つーか今更こいつが居ない生活って無理。 「ダメだなあ、俺ほんと穂高さんに捨てられたら無職になろう」 「別に今無職になってもいいけど?」 これは俺の本音。 人1人養うのに問題ないだけ稼いでる。そしてそうなれば誠は家からほとんど出ずに引きこもると思う。ぐうたらダメ人間生活と誠の相性はかなり良い。そうなってしまえば良いのにと大人気ないことも思ったりはするけど、そうさせたいとは思わない。 そうなったらそうなったで、どうもしないと言うだけだ。 「穂高さんといると楽な道がたくさんあるけど、そこに進んだらきっともう2度と這い出てこれない気がする」 「よく分かってんな」 「そして無理に落とそうとしないのが穂高さんらしい」 「そうか?」 「うん。分かってても出れなくなってる俺って重症かも知れない」 「病気かよ」 「うん、恋の病」 頭大丈夫か? ほんと頭はいいはずなのにどうにもバカっつーかなんつーか。そんなバカな発言に俺の気も抜けて、こう言った空気が好きだなと思う。 取り繕うこともせず、思うがままに生活してるはずなのにそこにぴったりとハマる誠のことを俺だってもう手離せない。

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