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おにーさんに仕事の愚痴をこぼしてしまったけど、怒ることもなく聞いてくれる。そして、俺よりも社会人生活が長いおにーさんは俺よりもたくさんの人を見ている。 「誠が自分で気づいたこともその人は気づけねえんだよ」 「うん?」 「誠がなにこれ?って気になったことも、その人は言われた通りおつかいするだけ。自分から積極的に学ばない。受動的っつーか。誠は気になったら聞くだろ」 「うん」 「しかもお前はしつこそう」 「今は時間がないから後でって言われたらそれは待つよ」 なるほど。 それはあるかも知れない。 去年、野田さんが俺に頼んでいたおつかいは面白いくらいいろんな製品と触れ合えた。依頼書を見ると途中までは同じなのに最後の過程が少し違うだけで大きな変化をするものもあって、どうしてそんなことしてるのかとか聞きまくった気がする。 そっか、俺はその時に依頼書を見てなにが違うんだろう、どうしてこうなるんだろうって思ったけど、田中さん頼まれたことをやるだけでそういったことを自分で考えないのかも知れない。 「ただ誠がいつも良いわけでもねえよ」 「うん」 「新人ゆえ踏み込んじゃいけねえところもあるかも知んねえし、言われたことをやるだけっつーのが悪いとは思ってない」 「うん」 「あれだ、馬鹿と鋏は使いようって言うだろ」 ………どういう意味? 俺国語の成績はあんましなんだよね。 黙ってスマホに検索させた俺はほほぉと唸る。そんな俺を見て、おにーさんは国語は苦手だったっけ?と笑う。 苦手だよ。 「ことわざなんて一石二鳥だけ覚えてたら良いもん」 「それは四文字熟語な」 「違うの?」 「ちげえよ」 バカって言ってくるけど、その顔は優しげで怒る気にはならない。そもそもなぜかバカとは言われ慣れてるからあんまり気にもしていない。 「その人もなんか縁があってお前んとこに来てんだから、役に立つようにうまく使えってことだよ」 「それが難しいね」 「まあな。けど、お前なら大丈夫」 「…………」 「話くらいはちゃんと聞いてやるし、誠は空気を読む能力が高い。ちゃんと相手見ながら、手間かも知んねえけどこっちから教えていけば良いんだよ」 「………うん」 「大丈夫」 あ、やばい。 おにーさんの優しい大丈夫に涙が出てきた。 俺が泣いても特に気にしないおにーさんは大きくて温かい手で頭を撫でてくれる。この手にはいつもたくさんのものを貰ってる。どれだけ忙しくても、辛くても、ここに帰ってこれるというだけで俺は頑張れる。 しっかりとおにーさんから元気をチャージして、また月曜日がやってくる。 俺は頭の中で何度もゆっくりと、様子見を見ながら、こちらから教える姿勢で、と繰り返している。 別に俺が教育係というわけでもないはずだけど、同じ部署で一緒に回ってるのが俺なんだから俺が1番気がつくはず。だから俺なりに、やれることはやってみよう。

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