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自分がそうだったからって、田中さんに同じを求めちゃいけない。製造さんへの態度はすごくモヤモヤするけど、体験から理解しろとも思うけど、ただやるだけでなにも考えないなら時間の無駄で………。 だから、今日は依頼書を見ながら、今どこの工程をしていて何のためにしているのか、ゆっくりと説明しながらやってみよう。 「田中さん、おはようございます」 「おはようございます」 「今日も大型に行こうと思っているんですが、今日はほとんどを大型の事務室で過ごすと思います」 「検査ですか?」 「いいえ。けど、先週ほど体力は必要ありません」 そう言うと明らかにホッとした様子の田中さん。本当に体力がないなあ。 今日の予定を話して、技術部で朝のミーティングをしてから大型の部署に向かう。 その時、俺が去年自ら製作したサンプルとその時の依頼書を持って行く。ちゃんと丁寧に教えよう。聞かれなくても、大切なことを教えていこう。 そうして大型の事務室に着き、断りを入れて端っこの方で依頼書とサンプルを並べる。そして、依頼書はどういう風に書くのか、なぜその工程をしているのかなどひとつひとつゆっくりと説明して行く。 理系の院卒なんだから考える能力がないとは思わない。だからきっとなぜ必要なのか分かれば自分から気になることが出てくる。そうなれば早い、と思う(思いたい)。 そうして、午前中いっぱいをかけてここで作る製品の最初から最後までの説明を終える。もちろん語り足りないことも多いけど、大筋の流れだけでも分かって貰えればと思う。 「思ってたより時間かかるんですね」 「そうなんです。今野田さんがサンプル依頼を出しまくってるものだと、精一杯急いでも3日はかかるんです。他の仕事もあるのに、それをたった数時間遅れで作ってくれるのはすごいなと俺は思います」 期日を守る。 これは社会人として当然のルールだけど、それはその期日が十分に余裕がある時だと思う。それだけを急いでやっても3日かかるものなのに、他の仕事もしながら3日半で作ってと無茶な依頼をかけてるのは俺たちの方で、それをわずか数時間の誤差でやってくれてることを考えるとここの人の仕事の早さには感服する。 「きちんとした理由があるから、この部署の人たちは文句も言わずに出来るだけ早くするって答えてくれてると思います。数時間遅れたことを謝ってくれるけど、俺的にはこんな無茶を頼んですみませんって感じで謝りたいのは俺たちの方です」 どんな処理をして、どのくらい時間がかかるのか。 きちんと説明して分かってもらう。俺はこの辺を頭じゃなくて体も使って学んだけど、人それぞれいろんなやり方がある。それが俺と田中さんじゃちょっと違うだけで、方法を変えたら良いのだ(多分)。 「これが製品になると3日じゃきかないですか?」 「そうです。大きさにもよるんですけど、サンプルほど加工しやすくないですから。最低でも1週間の納期は見ていると思います。大きいものだと2週間とか、そのくらいは貰ってるんじゃないかなぁ」 そう、こうして話してそう言うのを聞いてくれるならそれで良いのだ。俺的には頭で考えるよりやった方が早いと思うんだけど、田中さんはそのタイプじゃない。最初から頭に叩き込む方が性に合うのかも知れない。 実際にやってみると説明した以上の大変さが分かるんだけど、田中さんにそれは向かない。ただやってる(やらされてる)だけでそこから吸収出来るものが少ない。なんなら敵を作りまくって帰ってくるから困る。 田中さんは机でしか勉強できないタイプなんだろうなぁと俺はよくやく気付いたのだった。 それからの日々は田中さんと他部署巡りと言うより、他部署のスペースを借りてそこでどんなことをしているかと言うことをひとつひとつ丁寧に説明をする。比較的よく取り扱うものを中心に教えながら、田中さんの疑問があればその都度きちんと聞いて答える。俺の勉強不足だった場合はその部署の誰かに時間ありますか?と聞いて教えてもらう。 田中さんも居ることに驚きながらも、これはなと俺が根掘り葉掘り聞く新しい知識をたくさん教えてもらったりもした。 「伊藤くん、田中くんと上手くやれてる?」 「まあ、はいそうですね。机に向かって勉強するのは得意みたいで、体当たりは苦手みたいです」 「そうなんだ?悪いことしたかなあ」 それに関しては俺は答えることができない。 田中さんが製造部に放り込まれてどう思ったのか、そして製造部の人たちが今ただ場所を借りて静かに勉強してる田中さんをどう思うのかは分からない。 だけど、製造さんはツンケンして教えてくれないなんてことは無かった。 田中さん側からの壁は、まだあるように感じるけど以前のように棘を乱射しまくったりはしていない、と思う。 野田さんは俺に時間取らせてごめんねと言ってくるけど、きっと俺が知らないところで俺以上に時間を取られていたと思うから大丈夫ですと笑って答えた。

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