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そうして田中さんと勉強会をするのが毎日の恒例となり、人間関係を拗らせまくっている田中さんでも少しずつ気づいてくることがあった。 「伊藤さんって人懐っこすぎませんか」 「そうですよ。よく言われます」 「人に気を持たせすぎじゃないですか?」 「残念ながらそういう勘違いをされたのは田中さんが初めてです」 そう、多分初めてだ。 もしかしたら誰かしら言えずに思いを抱えてたり……はしたかも知れないけど少なくても俺は知らないし気付いてもいない。 俺の周りにいた人たちは、そう人間関係が不器用なわけでも、空気が読めない人でも無かったから伊藤ってこういうやつなんだくらいで終わってた。 「弄ぶつもりなくそんなになってるんですか?」 「その言い方はちょっと人聞きが悪いですよ」 俺は思ったことは言っちゃうけど、誰にでもそうだからあんまり誤解を生まない(と思う)。 「むしろ男の人にそんな誤解をされるなんて俺どんな風に見えてるんだって心配になりました。どうやら誤解は解けたようで安心です」 「口説かれてたわけじゃないんだなとは分かりましたけど、なんででしょうね。伊藤さんは可愛く見えます」 「うわぁ、全然嬉しくないです」 「なんか犬みたいです」 「褒めてませんよね?バカにしてます?」 「犬好きですよ」 「俺のことは同僚として適度な立ち位置でお願いします」 そう言うと努力しますと返事が返ってきてホッと一安心。 これで俺がうっかりやらかしたらなんの意味もないから気を抜いたりはしないけど、まあ少し目が覚めたならそれは良かった。 田中さんは人付き合いが苦手で、人を見るのに時間がかかる。その人を見る前にその人の学歴や立場といった肩書きばかりに目が行ってしまいやすい。そういうところも、これから会社で揉まれてるうちにもっと知って、気づいていけばいい。 勉強会を始めて2週間ほどが経ち、遅めの新歓がやってきた。まずは新入社員が社長の周りに座り、みんなの前で挨拶をする。そしてなんとなく部署ごとに散り散りになって好きなように飲んでいるのがうちの会社。 当然お酒に弱い人ばかり集まった技術部はからみ酒がひどい。今日も今日とてワインに日本酒、焼酎片手に飲もうよと俺に迫って来る3人から逃げるようにお酌に回る。 と言ってもこうなったこの3人にお酒と称して水を注いでももう気づかない。きくぅなんて言いながら水を飲んでるんだからほんとどうしようもない酔っ払いだ。 そして、今年はこの3人の犠牲になった人が1人いる。 「うええっ、吐ぐっ」 「ああっ!待ってください!誰かバケツ!!」 もう無理ですと口を抑えるのは田中さんで、まあ顔色は悪い。なんとなくお酒に強そうなイメージがあったのに、3人に勧められるまま飲んでいるうちに気持ち悪くなったらしい。 「はいバケツ」 「ありがとう」 「田中くんどうしたの?」 「あの3人に絡まれて、勧められるまま飲んでたらこうなってた」 阿川くんはあの3人と言われた野田さん、内村さん、鈴木さんを見てそりゃきついなと言って俺のそばの席に座った。 「なんできついの?」 「田中さんが最初何飲んだかは知らないけど、日本酒に焼酎、ワインなんて胃の中でアルコールがごちゃまぜで悪い酔い間違いないだろ」 「へええ、そういうもの?」 「伊藤くんチャンポンしたことないの?」 「俺ビールしか飲まないもん」 日本酒や焼酎、ワインも口にしたことはあるけどアルコールがきつくて喉が焼けるように痛くて好きじゃない。 「阿川くんはお酒強いの?」 「伊藤くんよりは。けどミホちゃんと飲むとミホちゃんのが強い」 「だろうね。ほんとあのきょうだいってそっくり」 「妹いるってまじ?」 「うん。今年21歳になる背が高くてすらっとした女の子だよ。あ、理系女子で俺とよく勉強の話はしてるかな」 「会ったことあるんだ?」 「うん」 穂波ちゃんに会ったのはお正月だけだけど、連絡はこまめに来る。次の実験はこれって写真が来て、俺がやったことあるやつならそれのレポートを送って、ついでに気をつけるポイントなんかも教えている。今は卒業に向けた研究課題をどうするかって相談が来ていたりしている。 俺と穂波ちゃんがこまめに連絡を取ってるとは知ってても、おにーさんは俺を信じてるのか穂波ちゃんを信じてるのかそれに関して何も言われたことはない。 「似てる?」 「よく似てる」 「そっか」 そんな話をしているうちに俺たちの周りは静かになった。 田中さんは起きてはいるけどぐったりと横たわり、上司3人はお酒が入っていたであろう(もしかしたら水かも知れない)グラスを持ったまま寝ている。足腰立たないなんてレベルじゃなくて、もう起き上がる気すらないその姿に俺はこうはなりたくないなあと思うのであった。

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