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新年会が終わり、帰る人と二次会に行く人に分かれてなんとなく解散……になるのがいつものパターンのはずが、未だあまり活動できないらしい田中さんは自分の後始末を誰にも頼んでいなかったらしい。
野田さんも内村さんも鈴木さんも毎度のことなので、誰かしら強い人や飲まない人、家が近い人に前もってお願いをしているから3人はすでに引き取られて行った。
「だれか田中くんち知ってる?」
そういうのは統括部長で、聞かれた全員が首を振る。
なんとか田中さんが最寄駅を答えてくれるけど、残念ながら(幸いなことに)俺の家とは反対方向。
誰が連れて帰るかということで残った何人かが揉める。
「伊藤くん頼める?」
「嫌です。俺家反対ですよ?」
「部下の面倒くらいいいだろ」
「上司3人にも絡まれてたんですよ?」
「技術部ってどうしてこうもお酒に弱い人が集まるんだろうな」
そう言ってから笑いをしてるけど俺は笑えない。
このメンバーなら間違いなく俺が送ることになるだろうことは分かっている。下っ端でかつ同じ部署で一応先輩、面倒を見なければいけない立場にいるのは分かってるけど、嫌だなあ。
断りはしたものの意味はないと諦めていた俺は、辛うじて口は動く田中さんに大雑把な住所を聞いてタクシーに乗り込む。
酔う!と叫んで気持ち悪っ!と口を抑えるのを繰り返していたから、こんなのを乗せることになってしまったタクシーの運転手に土下座をしたい気分だった。
20分ほど揺られたところでここから歩きますと言った田中さんと一緒にタクシーを降り、重たそうな体を引きずる田中さんの後ろを歩く。
「気をつけてくださいね。あの3人はお酒が入ると酷い絡み酒で、とにかく飲ませたがるんで。自分が飲めるのも持参で参加した方がいいと思います」
「気をつけるの伊藤さんだと思いますよ?」
「はい?」
「俺が送り狼になったらどうするんですか」
まだそんな迷い言言ってんの?って思っていたら手を掴まれてじっと見られる。
これをおにーさんがしたならそのまま強く腕を引っ張って乱暴にチューして来るだろうに、拗らせた男子にそこまでの積極性はないらしい(あっても困る)。
「別に無理して俺を好きになろうとかしなくていいんですよ」
「はい?」
「田中さんはまだ出会ってないだけです。いつかきっと自分全部あげたくなるくらい好きな人が現れると思うんで、俺はその時まで全部大事にとっておけばいいと思います」
田中さんにとって俺は優しかったのかも知れないけど、それはあくまで仕事だから、同僚だから。
俺が特別優しく、甘やかしてあげたいのは穂高さん。
甘えてばかりの俺だけど、おにーさんが甘えてくるその時は俺の全部を持って甘えさせてあげたい。そんなおにーさんが可愛くって仕方なくて愛おしい。
いつか田中さんのことをそう思ってくれる人と、田中さんがそう思えた時に恋愛したらいい。
「伊藤さんが羨ましいです」
「?」
「人付き合いに苦労しない人になりたかった」
「なら揉まれることです。たくさんの人に揉みくちゃにされて、そうやって人付き合いはうまくなっていくと思います。人付き合いが上手くいくなんて謳った本を読むくらいなら、その時間誰かと関わる方が身になりますよ」
「そうしてから恋愛ですか?」
「そんなに恋愛したいもんですか?」
「当たり前じゃないですか!リア充爆ぜろって言われたい」
あれ?この人バカかな。
つまりこの人は人前で、知り合いの前でイチャイチャしたいのか?見せつけるように?
うわぁバッカだあ。
「俺は言われたくないなぁ」
「………」
「俺にしか見せない甘えた姿とか、わざわざ他の人に見せたくないもん」
あんな可愛いおにーさんを誰かに見せるなんてやだ。
例えそれがミホちゃんでも穂波ちゃんでも嫌。
俺に甘えん坊なおにーさんは俺だけが知ってたらいい。
「そういうのをリア充って言うんですよ」
「別に人より遅くたって何にも問題ないです。無理して恋愛ごっこしてる方がもったいないですよ。そんな時間があるなら人波に揉まれて来てください」
「伊藤さんって案外スパルタですよね」
「人付き合いをどうにかしたくてたくさん勉強したみたいですけど役に立ちました?」
「………」
「あんま立たないですよね。相手も自分も人だから、実際関わって距離感を測って、そうして少しずつでいいと思いますよ」
そう、押してダメなら引いてみろって言葉は意外と間違ってないとは思うけど、押して押して押し倒してもぎ取る恋愛もきっとある。
けど押し過ぎて引かれることもあるだろうから、結局は相手を見てその感じでやって行くしかない。
それにはたぶん教科書も参考書もなくて、自分が傷つきながらでも関わって学ぶしかないと思うのだ。
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