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中型の部署に行くと、探すこともなく田中さんの居場所は分かった。サンプルを飛ばしまくってると言うのは本当で、そこはいつサンプル片が降ってくるか分からない危険地帯なので不自然に人が避けていた。 「たーなーかーさーん」 近寄ると危険だから遠くから大きな声で何度か呼びかけ、気付いたらしい田中さんが風圧に負けそうになりながらもヨロヨロと機械を止めて、伊藤さん?とくったりした様子で返事をしてくれた。 「ちょっと水分補給でもしましょう。無理は良くないです」 「でも、せっかく研究貰えたのに……」 「いやいや、あれだけ吹っ飛ばしまくってたら研究も何も無いですよ」 「…………」 近くのウォーターサーバーから水を貰い、田中さんにも渡す。 ついでに田中さんには塩ラムネなんかも渡しておく。これは暑くなってきて熱中症の心配もあるからと会社がウォーターサーバーの隣に置いてるやつ。俺もたまに貰うけど、意外と美味しかったりする。 責めに来たわけでもないのに、田中さんは一生懸命やろうとしてるんですよ!?わざとじゃないんですと謎の弁明をしていたけど、そんなの聞いてない。 勉強会をする前は自分が製造なんてって態度だったのが、研究をする上で必要になったと実感して自ら製造の現場に出て来た人がわざとサンプルを飛ばしてるなんて思ってない。 「田中さんには風圧きついですか?」 「少し……手が震えます」 「握力どのくらいですか?」 「高校生の頃で20ちょっととか」 「女子か!」 俺でも40くらいあったのに俺の半分くらいってやばい。 そりゃ風圧きついだろうな。まだ中型でやってるからサンプルが飛ぶだけで済むけどこれが大型なら自分が吹っ飛びかねない。 「苦手なことや出来ないことは製造さんに甘えませんか?今は俺が代わりにやっても良いんですけど、いつも助けられるとは限りません」 「………」 「俺がここに来たの、田中さんがサンプルぶっ飛ばしてるってことを教えて貰ったからです」 「でも、やっぱり俺にキツい人も居ますし……」 「まあ最初があれなんで仕方ないです。けど、俺に教えてくれた人は心配だから教えてくれたんだと思いますよ?」 全員が自分に甘いなんてあり得ない。 怒られない世界もあり得ない。 それでも関わっていくしかないのが仕事だ。 逃げてばっかじゃ変わらない。 「俺はここで作るなら自分でもやれますけど、時間的に余裕がない時は製造さんにお願いしています」 「………けど、自分で作る方が見えることもあるって言いましたよね?」 「言いました。けど今はまだ出来てないですよ。出来ない時は出来る人にコツとかを教えてもらって、まずは観察学習をしませんか?」 やった方がいいと言っても、やり方は聞いたっていい。やってみて苦手なものはゆとりを持った納期で頼んだ方がいい物ができるし、その辺は臨機応変。 俺は大型や中型で扱うものなら自分で出来るしそう下手でも無いけど、精密に関しては作るのは向かない。俺がズボラだからかやってるうちにもう良いじゃんと思ってしまい作業の手が遅くなる。 検査に関しては細かくても楽しいんだけど、精密部品の加工は苦手。 それは俺の自覚だけじゃなく、他の技術部メンバーが見ても明らかだからか俺には精密関係のものはあまりやってこない。精密に関しては鈴木さんが本当に器用で、大体は鈴木さんにお願いしている。 「得手不得手もやるまで分かりませんし、できない時は甘えた方が賢明です」 「………」 「頼む時は、お願いします!ってちゃんと頭を下げて依頼書を渡すんです。やっとけって感じじゃなくて、ちゃんとお願いをするんです」 「………はい」 こんなこといちいち説明しなくていいはずなんだけど、田中さんには必要なこと。立場の上下はどうあれ礼儀やマナーを欠くことはしちゃいけない。立場として上だと言っても、俺たちなんかよりよっぽど会社のことを知ってて仕事ができる人なんてまだまだたくさんいるんだから、今から偉ぶる必要なんて全く無いのだ。 そうして、田中さんは恐る恐るすみませんと話しかけて行く。いやいやいや、今まさに仕事しててどうやっても手を止めれそうにない人に話しかけなくても……。 「うるせえな!今は手が離せねえから20分後に出直してこい」 「はいいぃっ!」 「大丈夫ですよ、ちょっと口は悪いけど面倒見のいい人です。入社してから20年!中型一筋やって来ました!って人なんで下処理もすごく上手いです」 「はははっ、煽てんのが上手いなあ」 「いいえー、俺たち端の方借りてます。手が空いたら教えてください」 はいよって返事が聞こえて、俺はすっかり縮こまった田中さんを連れて少し端に寄る。怒鳴られて怯えて、この人は本当に人と関わるのが苦手だなと改めて感じた。

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