202 / 438

202.

田中さんが自分で下処理をしたということもあって、粒子の大きさや風圧、そして素材となる材質に関する話をしているとあっという間に20分が過ぎていた。 「で、どうしたんだ?」 「………」 「ほらっ!しっかり目を見て話す!」 「っ、あのっ、その、下処理をやってるとそのっ!」 「「…………」」 「手取り足取り教えてください!」 田中さん、もう少し違う言い方はなかったの? 教えてくださいだけで良かったんじゃなかろうか。 手取り足取りってどういう意味だったっけ?と考えてみるけど俺の頭の中に答えはなさそうですぐに諦める。 製造さんはきょとんとして、何作ってんの?と田中さんが作ろうとしているものの依頼書をスッと取ってみる。 「ついでだから俺にも教えてください!」 「伊藤くんは自分で出来るだろ」 「田中さんと勉強会して、1年経って復習したからこそ見えてくるものとかもあってこういう時は一緒に教えてもらいたいです」 「分かった。やり方は教えてやるけど、細かいところは自分でなんとかしろよ」 「はいっ!」 「それとそのサンプル片はもう使えないから新しいの持ってこい」 「はいただいまっ!」 そう言って新しいサンプル片を取りに走った俺に慌ててついて来る田中さんがありがとうございます!と製造さんに言っているのが聞こえた。 まだまだフォローが必要だけど、田中さんはきっと大きな一歩を踏み出している(と思う)。 それからサンプル片を並べて、製造さんに並べ方のポイントだったり、力不足の時はどうしたら良いかなんかを聞いてみた。 「続きはいつやるんだ?」 「え……っと、出来るだけ早めに取り掛かろうと思っています」 「ならマスク用意してこい。今日なら付き合ってやれるからさっさと取りに行け」 「っ!!はい!」 自分のマスクを取りに駆け出した田中さんを見送って俺は製造さんに頭を下げる。 去年もこの人は俺のサンプル作りに付き合ってくれたっけ。言い方はキツいところもあるけど面倒見が良くて、俺のせいで残業をさせることになっても責めたりするような人でもない。時間なんて気にせず丁寧にやれと叱られはしても、さっさと終わらせろと言われた覚えはない。 厳しくてもこの人はきっと必要なことを教えてくれると思うから、俺は田中さんが来る前にそっとその場を離れることにした。 今日の分の研究を切り上げ、明日までの検査依頼をまとめているとぐったりと疲れ果てた田中さんが事務室に戻ってきた。 「お疲れ様です」 「………お疲れ様です」 声に元気は全くない。 生活の乱れが疲れとして現れていて、去年の俺もこんなだったのかなと遠い気持ちになる。 「サンプルはできそうですか?」 「はい、なんとか。ところであの、これは……?」 「朝に振り分けてた今日の検査依頼ですね」 「無理ですよ!?過剰労働も良いところですよね!?」 「そうですね、それがうちです。慣れてください」 無理ですよ!これで一人暮らしなんて出来ると思いますか!?と嘆く田中さんには同意しかできない。 俺はたまたまいい人に拾われて今もこうして元気に過ごしているけど、あのままおにーさんに出会わなかったら今の俺の予想体重は30キロを切ったあたりか………。多分そうなる前に本当に倒れてるだろうな、さすがに。 「伊藤さんってほんとタフですね」 「田中さんと比べるとみんなタフになると思います」 インドア派と言っても酷すぎる。 そんなくだらない話をしていても仕事は減らない。それどころか営業さんがごめん!と駆け込んできたりしてさらに仕事の山が増えて、俺と田中さん、それから戻ってきた技術部メンバーがはぁとため息を吐きながら残業に取り掛かるのが見慣れた光景になりつつあった。

ともだちにシェアしよう!