204 / 438

204.

泣きながらでもご飯を食べた俺におにーさんはさらに追い討ちをかける。 「出張に行ってる間に約束して欲しいことあるんだけど」 「やだ。むり、できない」 「まだ言ってねえよ」 「やだ、聞きたくない。絶対いい予感がしない」 「さすがだな」 今いい子って撫でられても嬉しくない。 何を言われるかは分らなくても俺にとって守るのが難しいであろうことなのはおにーさんのこの様子からして間違いない。 「痩せるなよ」 「むりだよおっ!むりなの分かってて言ってる!?」 「無理じゃねえ、やれ」 「むりぃぃい!」 即答で無理と答える。机もバンバン叩いて暴れて、無理だと訴える。絶対無理だよ! おにーさんが居ないなら間違いなく朝は食べない。昼は会社の食堂で定食を食べて、夜は………早く帰ってこれたらなんか食べるだろうけど遅くなったら食べるより寝たい。 むりむりと首を振っていると、おにーさんは言葉を続ける。 「いいか、食わずに寝るくらいなら寝ずに食え」 「そんな真面目な顔しておかしなこと言わないで!」 「どこがおかしいんだよ」 「寝ずに食べろなんて普通言わないから!」 「お前が痩せるのが悪い」 そんな無茶苦茶な! 俺が痩せようとしてないことくらいおにーさんよく知ってるのに!ダイエットどころか好きなものや美味しいものはよく食べてるのに! むりむりと嘆く俺に、あとは……と更に言葉を続けたおにーさんに俺はもう呆れるしか出来なかった。 家を出たら鍵を掛けろ 家に帰って来たら鍵をしてチェーンも忘れずに 換気しなくていいから窓を開けるな 掃除しなくていいから怪我をするな 料理は絶対にするな 火を使うな などなど、小学生の子どもを1人で留守番させるのが不安で仕方ない親みたいなことを言っている。 忘れてるかもしれないけど、俺23歳。もうちょっとで24歳になる立派なしゃち……じゃなかった、社会人。 そんなこと心配されなくても大丈夫だ。 痩せるなって言うのは無理だとしても、戸締りくらいちゃんと出来るし。俺1人で4、5日過ごすくらいじゃ掃除なんかする気にならない。平日に自炊なんてもっとしない。 「カップ麺は買っててやるから電気ケトルを使うんだぞ」 「俺のこといくつだと思ってんの!」 「こんなの歳なんて関係ねえよ」 「むむっ」 「ダメだ、出張の準備より残して行く誠の方が心配すぎる」 そんなことを真顔で言うもんだから俺の方が少し冷静になって来た。 仕事から帰ってきておにーさんが居ないのはもちろん嫌だ。だけど、おにーさんは嫌とかそんな話じゃなくてものすごく俺のことを心配してくれている。 それこそ23のやつに言って聞かせるようなことじゃないことまでたくさん言っているその姿は、たまらなく可愛い。 おにーさんは大概、俺のことが好きなんだなとあったかい気持ちになる。 「何笑ってんだよ」 「えへへ、穂高さんって俺のこと好きだね」 「何?伝わってなかった?」 「ふふっ、もっと教えて」 おにーさんにぐっと近寄ってちゅっとその唇を奪う。 一瞬だけくっ付いた唇が熱い。 もっかいと思ったのに頭を押されてやめろと言われて俺は文句をぶー垂れる。 「なんでなんで!」 「痩せないこと、鍵を閉めること、チェーンすることに掃除料理をしないこと、あとそれから」 ああダメだ、今おにーさんの頭の中は俺をいじめることよりも一人残した俺が無事に過ごせるかを考え過ぎていて会話が成り立たなくなってる。 「そんな心配なら連れてく?」 「そうか、その手もありか」 「ちょっと待って!冗談だから!お願いもう少し冷静になって!」 「ああ?お前がもう少し自己管理出来てりゃよかっただけの話だろ」 「俺のせいにしないで!穂高さんが過保護なんだよ」 「自分のもん大事にして何が悪いんだよ」 「あ、いや、それはっ」 それは嬉しいんだけどもう少し心配の方向性を変えて欲しい。俺はそんなに小さな子じゃないから! おにーさんのもの扱いは全然いいんだけど、なんて言うかもう! 会話が成り立たないおにーさんは、やっぱりダメだ!

ともだちにシェアしよう!