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心配が尽きないらしいおにーさんは思い出すたびに俺に何か言ってくるけど、もう聞く気はない。 お菓子の食べ過ぎに気を付けろよ アイスは1日ひとつまでだぞ 賞味期限はちゃんと見てから食え とまあこんな具合で、もう耳が痛くなって寝よぉと誘ってみるとそれには渋々従ってくれた。それでもおにーさんのとんでもない心配は続く。 歯磨きはちゃんとしろよ モンダミンで終わらせるなよ といった具合だ。 どう見たって家に1人で寂しいと嘆く俺より、俺を1人で残していくことが心配でたまらないおにーさんの方が常識と冷静さを欠いていてどうしようも無い。 布団に入っても心配事を考え続けるおにーさんに少しムッとして、あったかい体をキツく抱きしめる。 「誠?」 「俺の心配はいいから。大丈夫、頑張れるよ」 「………」 「穂高さんはちゃんと仕事してきて、帰ってきてくれたらそれで良いの」 すりすりと甘えて、絶対に譲れないおねだりをする。 帰ってきたら頑張ったなってちゃんと甘やかしてくれたらそれでいい。 「穂高さんもひとつだけ約束してくれる?」 「なにを?」 「向こうで何か拾ってきちゃダメだよ?俺だけ飼ってたらそれで良いんだからね」 「はっ、ははっ、わかってるよ」 少しいつもの澄ました顔が戻ってきて、静かに笑ったおにーさんが俺の頭をちゅっちゅとキスをする。 「お前も寂しいからって他に飼い主探すなよ」 「探さないもん」 俺がこんなにダメダメのぐうたらの甘ったれだと知ってて受け入れてくれるおにーさん。こんな人は居ない。こんなにも心地いいものをくれる人は他に絶対に居るわけない。 頭から顔に降ってきたちゅーに酔い痴れるうちにチクッとした痛みを首に感じて、なに?と聞けばマーキングと言われた。 「まっ!待って!明日も俺は仕事!」 「聞こえない」 「ちょっ、ッ、」 うるさいと言うようにさっきチクッとした痛みを感じたところに歯が立てられて体が強張る。 ああダメ、こんなことしてたら寝れなくなるっ。 明日仕事なのに! エッチするのはいいんだけど、その鬱血痕と歯形はダメ!この時期半袖だしタートルなんて着ないし隠せない。 「大丈夫、ここだけ」 「そぉいうっ、話じゃっ!」 1個ならいいとかそんな話じゃなくて、何個でも良いから隠せるところにしてってだけで! 全然伝わってないらしく、見えそうなところを何度も吸われて、馴染ませるように舐められて、噛まれて。俺はもっとと続きをねだる以外は何もしなかった。 疲れ果てたと言うほどでもないけど、くったりと眠った俺は朝もなかなか起き上がれずおにーさんに起こしてもらった。 これは今のおにーさんに良くなかったと後悔するのにそう時間はかからなかった。 「誠、ちゃんとアラームも買ってやるから」 「要らないから!いつもちゃんと起きてるって!」 「今日は起きなかっただろ」 「大丈夫だって!起きれるから!」 基本的にはいつもちゃんと1人で起きている。 今日は昨日エッチした満足感から俺の眠りが深かっただけだから。海の底どころかマントルに潜ってたから。ただそれだけだから。  「どんなのがいい?爆音のアラームを扉出たところに置くか?」 「穂高さん、もう少し冷静になった方がいいと思うよ」 「冷静だろ」 「どこが!?」 「あんまのんびりしてる時間ねえだろ。さっさと顔洗ってこい」 「………はぁい」 時間がないのは事実だけど、なんか誤魔化された気もする。だけどそんなの一瞬で忘れさせる朝ご飯に俺はすっかり機嫌を取り戻して元気に出勤するのだった。

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