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207.
仕事中に話し込むわけにも行かず、昼一緒に食べようと誘われた。まあこれと言って先約もないしいいよと答えてそれぞれ仕事に戻った。
お昼休みになると阿川くんがX線室に迎えに来てくれて、さあさあと大型の事務室に案内してくれた。
食堂がやってなくてもお昼は食堂で過ごす人が多いから、ここは俺と阿川くんの貸切。そういう話をするにはちょうどいい。
「噛まれるのって痛い?」
「痛い。ミホちゃん噛まないの?」
「噛まない」
「へえ」
「そのアザって……噛んでできるの?」
「噛んだ上から吸われる」
「痛くないの?」
「痛いよ」
そう、痛いのだ。
なぜかそれがおにーさんとそういう雰囲気になってる時にされると痛いのにゾクゾク興奮するんだから不思議だ。
けどそっか、ミホちゃんは噛まないんだ。
我慢してる……とか?
うーん、ミホちゃんがさでぃすてぃっくなのは知ってるけどどういうことを好むのかまでは良く分かんないしなあ。
「ミホちゃんって噛んできたことあるの?」
「ない」
「なら噛みたい人じゃないんじゃない?ミホちゃんもいたぶるのは好きなはずだけど、いくら似たものきょうだいでもその辺の差はあると思うよ」
「………けどいいなぁ」
「なにが?」
「なんか独占欲が滲み出てる」
だから大差ないって。
今はミホちゃんが必死に自分の中に抑え込んでるだけで、おにーさんと変わりないくらい独占欲は強いと思うから。
「ミホちゃんもそう我慢は続かないよ」
「我慢してんの?」
「たぶんね。けど無理だから」
「?」
「そぉいうことしていいって分かってるのに出来ないなんて、そんな意味わかんない我慢長く続くはずがない」
例えばもし、もしも阿川くんがそういうことをされるのは怖いとか言ったなら別だ。ミホちゃんは好きな人を傷つけたり怖がらせるようなことはしないはずだから、絶対に我慢すると思う。
けどしてって言ってるならミホちゃんの葛藤と欲望で欲望が勝つのも時間の問題だ。そうなったとき、ミホちゃんはやっちまったとか言って青ざめそうだけど、同意の上なら何の問題もないと思う。
実際、やられてる俺としてはおにーさんにされるなら別にいいのだ。お陰で俺の体は成人男性としてはなんとも情けないことになってるけど、まあこれも俺がいいよと言ったことだから問題はない。
「ミホちゃんとミホちゃんのお兄さんはやることもそっくり?」
「うーん、やることは違うと思う。ミホちゃんは縛ったり打ったりするみたいだけど俺はそんなことされないもん。阿川くんってどえむだね」
「伊藤くん人のこと言えなくない?」
「俺は飴と鞭なら飴9だもん。ミホちゃんは付き合ってから飴が半分くらい?」
「鞭ばっかでもいいんだけどな」
「俺は飴ばっかがいい」
阿川くんどえむじゃん。
鞭ばっかとかなんのメリットがあるんだろう。
こう言っちゃあれだけどスパイスが効きすぎてたら辛いだけで旨味飛ばない?それとも辛いだけがいいってこと?やっぱどえむじゃん。
「ミホちゃんがそんなことすんのって俺にだけならさ、全部受け止めてあげたい」
「それ俺にじゃなくてミホちゃんに言ってあげたら?」
「照れるじゃん」
「俺に言ったってミホちゃんに伝わんないよ?」
「伊藤くんはその、そういうの言う?」
「気づいたら口から出てる」
「バカじゃん」
その言い方にむっとするけど、その通りだ。
けどおにーさんはこんな俺が好き。
俺が堕ちれば堕ちるほど、甘やかして可愛がってくるのがおにーさんだ。
「阿川くんがもっと酷いことされても良いって思ってるなら言うべきだよ。ミホちゃんはいたぶりたいの我慢して、阿川くんは酷くされたいの我慢して。そんなの我慢してる意味わかんない」
いたぶりたい人といたぶられたい人。
揃っているのにわざわざ別の方を向くなんてほんと意味わかんない。
「???つまり伊藤くんは噛まれたくて、ミホちゃんのお兄さんは噛みたい人ってこと?」
「いやいやいや、俺はおにーさんが噛むのを受け入れてるだけだよ?」
見苦しい言い訳だけど、噛まれたいとは認めない。
もっと噛んでとねだることも、気持ちいいと声を上げることもあるけどそれとこれとは話が別だった。
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