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そんな話をしているうちに昼休みが終わろうとしていて、阿川くんはおもむろに絆創膏を取り出した。
「?」
「それ痛々しいから」
「そんなこれ見よがしに絆創膏貼らないよ」
「なんでそんな見えるところなんだ?」
「昨日ちょっと会話が成り立たなくて」
はあ?と首を傾げる阿川くんに俺は苦笑いを浮かべる。
ミホちゃんはどうなのか知らないけど、おにーさんはたまに会話が成り立たない。その結果こうして運が悪いと見えるような場所にこんな鬱血痕と歯形ががっつり残ったわけだ。
「ほんと、良いなあ」
「なら噛んでって言えば良いじゃん」
「…………」
「ミホちゃんも独占欲は強いはずだよ」
阿川くんはそんなことしないだろうけど、ちょっと嫉妬させたくてふらっとした様子なんかを見せたりしたらあのきょうだいの報復が怖い。
「伊藤くんとミホちゃんってほんと仲いいよな」
「ミホちゃんって人当たりいいのに友達少ないらしいからね」
「そうなの?」
「おにーさんがそう言ってた」
「へえ。気になってたんだけど、伊藤くんって付き合ってるのにお兄さんって呼ぶの?」
「普段は名前で呼ぶよ」
「………俺も穂積くんって呼ぼうかな」
「恥ずかしがったミホちゃんに殴られるに1票」
そうなるのは想像できるのかあり得ると渋い顔して言う阿川くん。
ミホちゃんはちょっとその辺りが不器用だから、ミホちゃんの愛は痛いと思うけどそれを含めて2人の相性は良さそうだなと感じたのだった。
ふとした拍子に見えてしまう所についた鬱血痕を隠すため、午後からは完全に引きこもって仕事をした(よくあること)。
そうして阿川くん以外に見られることなく、無事に仕事を終えた俺は原付に跨る。
蒸し暑い帰り道、アイスが食べたくなった俺はコンビニに寄り道をしてカゴに高級アイスを放り込んでいく。
ご飯の後におにーさんと食べようといろんな味を買い占めて帰宅した。
「ただいまぁ」
「おかえり」
いつもならリビングに入るなりおにーさんに飛びつきに行くけど、今日はアイスの避難が先といそいそと冷凍庫を開く。空いたスペースにアイスを詰めているとおにーさんが覗き込んでいたから一緒に食べようねと笑う。
1人で食べても美味しいものは一緒に食べたらもっと美味しい。
「アイスは1日1個だぞ」
「何個食べても美味しいよ?」
「体が冷える」
「こんなに暑いのに!?」
「内から冷える方が良くねえんだよ」
そおなの?と首を傾げる俺と、深い深いため息をつくおにーさん。こんなの置いてけってのか?と自問自答してる姿から俺を1人残す出張中の心配をしているんだと思う。
「俺、短かったけど一人暮らししてたよ?」
「痩せまくってただろ」
「食べる暇があるなら寝たかった」
「寝ずに食えって言ってんだよ」
「それ正気じゃないよ」
おかしくてたまらない事を相変わらず真面目な顔して言うもんだからか俺は呆れてしまう。俺の心配ばっかしてないで、ちゃんと出張の準備をして欲しい。
俺は長期出張も実家の近くだから実家で寝泊まりするけど、おにーさんはホテル生活だ。疲れなんて抜けなくてきっと疲れること間違いなしだから、せめて俺の心配くらいはしないで良いよと言ってあげたい。
「アイスは1日1個まで、ちゃんと覚えた!」
「あと痩せないこと」
「………へへっ」
「笑って誤魔化すな」
それは約束したくないから笑って見上げると、クッソと苛立たしげに舌打ちをして俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
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