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おにーさんが帰ってきた日は俺の体のことを考えてか(俺的にはすこぶる元気)すごく優しくしてくれた。 ただこれはこれでダメだ。 痛い意地悪はされないけど、甘ったる過ぎて恥ずかしくて死ぬかと思った。そしてそんな俺に、こうやって虐めんのも悪くないなと何かに目覚めたかもしれないおにーさんに俺は心の中で泣いた。 おにーさんとエッチしたにも関わらず歯形も鬱血痕も見当たらない。クローゼットの鏡で見て見てもやっぱりどこにもない(噛まれた記憶がないから当然と言えば当然)。 出張明けだというのに相変わらず規則正しいおにーさんはもう起きているみたいで、物音のするリビングに行く。 おにーさんがキッチンでご飯を作るなんて見慣れた光景なのに、本当に帰って来たんだと俺の目からは涙がポロポロと溢れていた。 「おばよお゛」 「なんで泣いてんの?どっか痛いか?」 「ぢがう゛ぅ」 「どうした?」 俺を見ておにーさんがギョッとした気がしたけど、残念ながら表情を細かく読み取れるような視界じゃなかったからはっきりは分からない。だけどその声はいきなり泣いてる俺をただ心配していて、それにも涙が溢れた。 ぎゅっと抱きついて嬉し涙と必死に伝えるとあったかいため息が降って来て、ちゃんと帰って来たからと言葉にして俺の頭にちゅってしてくれる。 昨日に引き続きまだ甘ったるいおにーさんにむずむずキュンキュンして涙は引っ込んだけど、赤い顔は隠せなかった。 「ほんとよく一人暮らししてたな」 「自分でもそぉ思う」 「しばらく遠方の出張はねえから安心しろ」 「しばらくってことはまたいつかあるかも知れないってこと?」 「まあな」 嫌だけど、嫌だけどどうしようもない。 俺もおにーさんも社会人なわけだし、会社に雇われているものとして出張と言われたら基本的に断れないのも分かってる。 うちの会社なんて勤務地は希望に添いますなんて大きな嘘まで謳って俺を一人暮らしさせた罪な会社だしなあ。結局雇われの身とはこう言うことか。 「今度どこかにお詣りに行ったら穂高さんの出張がなくなるように祈るね」 「俺の出世の邪魔すんな」 「出世したいの?」 「いや、そうでもねえな」 だよね。 おにーさんって真面目に働いてるとは思うけど出世欲に塗れてるって感じはしない。それでも真面目に働いてる人はそれなりに評価されると俺は思うから、きっとおにーさんは年相応に出世すると思う。そうなれば中身が歪みまくってるにも関わらずおモテになるんだろうなぁと複雑な気持ちになったのだった。 俺が泣き止んだことでご飯作りに戻ったおにーさんは手際良く卵焼きを作ってくれている。相変わらず綺麗な卵色で焦げ目なんてほぼ無い。 「卵焼きって難しいよね」 「そうか?」 「母さんがあんまり下手だからって見本だとか言って調子乗って作ったことあるけど母さんのと大差なかった」 「下手ってどういう風に?」 「焼き過ぎてぱさぱさしてて、おにーさんが作るのみたいに卵同士がぎゅってしてない」 「焼けばいいって話じゃねえよ」 「違うよ、火が通ればいいんだよ」 「もっとちげえよ」 あれ?ととぼけて首を傾げる。 俺も母さんも焼けてればいい、生は危険ってくらいの感覚で料理してるからなぁ。その割に母さんが作った唐揚げが生だったこともあるけど、電子レンジという文明に救われた。 俺の話に相変わらずおにーさんは理解できないって顔してるけど、そこで育てばそんなもんだ。つまり、だ。 「俺はそんなんで良いんだから出張明けくらい卵かけご飯で良いのに」 「昨日から卵かけご飯押し過ぎじゃね?」 「好きだからね。けどゆで卵も捨てがたい」 「そんな1日に何個も卵食わさねえよ」 俺の管理に余念の無いおにーさんにとっては卵の暴食は見逃せないらしい。 卵って栄養価高くなかった?と聞けばなんでも食べ過ぎは良く無いとのこと。ただ食べてれば良いんじゃなくてバランスが大事だとか言っていた。 おにーさんはやる気になれば栄養士にもなれたと思う(割と本気で)。 ほかほかと湯気を立てる卵焼きに何かの胡麻和え、お魚とお味噌汁。がっつり和食だ。和食は手間がかかるというのに出張明けの朝にわざわざ? 昨日はエッチしたけど、恥ずかしかっただけで痛いことは全然されなかったからご褒美ってわけでも無いだろうし。 「食わねえの?」 「食べる!けどぉ」 「けど?」 「どぉしたの?何か企んでる?もしかして出張中なんか俺をいじめること思いついたとか?」 「バカ。んなじゃねえよ」 ほんとに?と確認する俺にほんとと何度も言ってくれて俺もようやくお箸を手に持った。 食べ始めると久しぶりの美味しい朝ご飯に考えていた疑いなんかは全部飛んで行って、ニコニコと山盛りのご飯を完食した。

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