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216.
土曜日は1日中おにーさんに甘え倒して終わった。
明日は買い物行くぞと行ったおにーさんに早起き?と聞けば9時までは寝てていいと言われたからアラームは8時50分にセットして眠った。
じーじーっと独特のアラーム音が俺の目覚まし。
ずっとこの音を設定しているせいかこれ以外はなぜか聞こえない仕様になってると思う。おにーさんとの1年に及ぶ同居→同棲生活の中で俺はおにーさんのアラームに気づいたことはほとんどない。
ごろんごろんと転がるようにベッドから降りてリビングに行く。するとダイニングの机には見慣れないものが置かれていて、ツンツンとその箱を突いてみた。
クラフト製の紙パック……?
そして持ち上げてその中身に気づく。
この独特の底の感じ、卵?
何で卵?
首を傾げて卵を眺める俺におはようとおにーさんが声をかけてくれて、振り返る。
「大事にしろよ」
「卵を?」
「お前のために買った卵」
「?」
「いつだったか旅番組でやってた高級卵かけご飯。その卵」
「買ってくれたの!?」
「ああ。昨日の宅急便の中身」
「やったああ!おにーさん!ご飯!丼いっぱい!」
「はいはい」
あの旅番組いつ見たっけ?
結構前だと思うのに覚えててくれたんだぁとほっこり心があったかくなって、それと同時にヒヤッとした。
昨日に引き続き今日まで甘やかしてくるとは……ほんとに下心ない?大丈夫??
そんな心配をしているとちょっと呆れた顔のおにーさんがなに百面相してんの?と笑っていた。
うーん、嫌な笑い方ではない。
そうして持って来てくれた丼に盛られたご飯と、あったかいお味噌汁。あとお漬物。
卵かけご飯みたいなシンプルな料理にはシンプルなものが合う(俺の持論)。
つまり卵かけご飯の日はたくさんのおかずじゃなくてご飯が欲しい。
「………穂高さん、卵2つ使っていい?」
「いいよ。卵白置いとけよ。後でクッキーにでもしてやるから」
「はあい」
俺が黄身だけの卵かけご飯を好むのも知ってるから卵白用にボールまで用意されていた。しかもこれはゆくゆくクッキーになるらしい。
コンコンと卵を割って卵白を避けてほかほかご飯に濃いオレンジ色の黄身。
「うわぁあ、美味しそう!テレビで見るより美味しそう!いただきますっ!」
「どうぞ」
んんーっ!!!
濃い!濃くて甘い。お醤油控えめにしたけど全然いける。おかわりしたい。あ、でもこんなに美味しいなら半熟のゆで卵も捨てがたい。ああけどけど!目玉焼きにしてもいいかも知れない。
「卵1個で幸せそうだな」
「美味しいもん!ねえねえ、残ったのどう食べる?」
「お前が好きなようにしてやるけど、今日はもうダメ」
「おかわりは?」
「ご飯はいいけど卵はダメ」
「それ卵かけご飯じゃなくてただのご飯っ!」
「ふりかけねえから塩でもかけるか?」
くううぅっ!
優しいと思えば今度は意地悪!
塩かけただけでも食べれるけどさ!
まあいいや。腹8分目で抑えておこうとご馳走様でしたとお箸を置いた。
朝から大満足。
昨日にしても今日にしてもどうしたんだろう。ちょっと甘やかしすぎだ。
「なに?」
「ほんとに下心ないの?いきなり言われても無理って言うよ」
「ねえよ。強いて言うなら」
「言うなら?」
「お前の誕生日だから」
「へっ?」
「今日だろ」
「覚えててくれたの!?」
「まあな」
嬉しくって椅子から飛び上がっておにーさんに抱きつく。
嬉しい、すっごく嬉しい。
誕生日に働くことどころか、出張までした去年。
今年は偶然にも日曜日で、それを大好きな人が祝ってくれる。今日は買い物にも行かずおにーさんと家に引き籠りたいと思ってしまったのだった。
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