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いつものように仕事をしていて、薬品を触るためゴム手袋をしようとしたところで手に見慣れないものがあることに気づいた。 昨日は絶対に無かったはずで、いつの間にって多分俺が寝てる間になんだけど! ふぁぁあ!と叫びそうなのを必死に耐えたけど1人暴れまわってビーカーを2つほどお陀仏させた。実験室に1人なのをいいことにビーカーの片付けは後回しにして、それをじっと眺め、好奇心で指輪を外してその裏側を見てみる。 ベタなところで行くと俺の名前とかおにーさんの名前が入ってるんだろうなあとウキウキと覗くけど、俺が思ったようなものは無かった。 その代わり、内側に小さな赤い宝石みたいなのがついてた。外側からは全く分からないし、付けてても違和感がないから見なきゃ絶対気付かないやつ。 うわぁあ嬉しいと1人実験室で回ったら割れたビーカーを踏んづけてさらに粉砕してしまい、片付けが大変だったのはここだけの話にしておこう。 これは問い詰めなければと出来るだけ早く仕事を終わらせて家に帰っておにーさんを問い詰める。 どうやら対になってるものがあるらしいこの指輪。なぜか俺の分だけ買ってくれたらしいけど、おにーさんのも買いに行こうと約束を取り付ける。 日曜日に見に行こうねと笑いかけるとはいはいと言ってくれた。 「ねぇ穂高さん」 「なんだ?」 「穂高さんって赤色好きなの?」 「いや?別に」 「へ?そうなの?なんで赤いの入ってるの」 「お前自分の誕生石も知らねえの?」 「誕生石?」 「月毎に誕生石っつーのがあるんだよ。7月はルビー」 ほほぉと頷きながらシリにルビーについて調べてもらう。 パッと出て来た写真は確かに赤色。 そして説明文を読んだ俺はうっかりスマホに釘付けにされた。 「どうかしたか?」 「穂高さん」 「なんだ?」 「ルビーってコランダムなんだね!うわぁ、現物構造解析かけたい。楽しそうっ!」 「………」 「なにこれ!面白いね!あんまり地学って好きじゃないから勉強しなかったけど、こうして構造で見ると化学的分野に近いところもあるって言うか!熱を通して色味を鮮やかに出来るとかどう反応してるんだろ……」 「お前、ほんと仕事好きだな」 「えへへ」 ついうっかり。 いやいや、でもすごいなあ。意外と奥が深い。 コランダムと言われればそれが何かは分かるけど、ルビーがコランダムだとは知らなかった。ましてサファイアとは不純物の違いだなんて全然知らなかった。 全く仕事とは関係ないんだけど、知らなかった知識が増える。俺が詳しい鉱物は炭素の塊ダイヤモンドくらい。これは構造の勉強をする際に絶対に通る道だから知ってただけで、そんな教材にならないコランダムもといルビーやサファイアについては知らなかった。 「誠って化学オタクって感じだな」 「研究熱心なの」 「それにしてもびびるわ、日本語じゃねえよ」 「あ、コランダムっていうのは酸化アルミニウムのこ「日本語にしろってことでもねえよ」 あ、違うの。 そういうことじゃ無かったのか。 俺が学生時代に知ってたら構造解析をかけた上で色々と自分で調べてみたかった。今は仕事として研究をしてるわけだから趣味のことは出来ないのが残念だ。 「ふふっ、嬉しい」 「俺は複雑」 「へ?」 「喜んでるのは分かんだけど、知識に喜んでのかそれに喜んでんのか」 「どっちも!でもでも!穂高さんがこんなのくれるなんて思ってなかったから嬉しい!もお大好き!」 「はいはい」 今日は何度もチラチラと指輪を見てしまって、色々と注意力散漫だけど仕方ない。嬉しすぎた。 こういうのって、もちろん軽い気持ちで買う人も居るだろうけどおにーさんはきっと違う。この人はそんなに軽い気持ちで相手を束縛したりしないから、この指輪はものすごく重たい重たいプレゼントだ。 ご機嫌にご飯を食べて、進められるままお風呂に入ろうとしてはっと気づく。 「穂高さーん」 「なんだ?」 「錆びたりしない?」 「しない」 「ほんとに?」 「ほんと。パラジウム?」 「パラジウムなの?」 「プラチナと変わらないけど軽いって聞いて。誠はこういうのつけないから軽い方が違和感ねえかなと思って」 「そうだね、周期表ではプラチナの真上だからかなり安定した物質で、プラチナより原子量が少なくて軽く「お前がなに言ってるか分かんねえよ」 まあとりあえずそれだから大丈夫と言われて、まあパラジウムなら大丈夫だと指輪と一緒にお風呂に入る。 一緒にお風呂に入って、俺は指輪さんにこれからよろしくねと、改めて挨拶をした。

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