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お風呂から上がった俺はソファに座ったおにーさんにダイブしてゴロゴロと甘える。 おにーさんが出張から帰って来てから本当に甘やかされっぱなしでやばい。やばいけど嬉しい。 「ねえねえ穂高さん」 「なんだ」 「俺、もうちょっとまともに稼げるようになったらちゃんと穂高さんちに挨拶行くね」 「ゴボッ、っ、なんのだよ!?」 「へ?えーとなんだろ?結婚?」 「できねえよ」 「んっと、でも俺もぉおにーさんに一生縛られちゃったよ?」 「長えな」 「だからちゃんと挨拶に行くよ!」 「お前ほんとバカだな」 なにが? むしろこれはしっかりしてると言って欲しいんだけど! 逃げも隠れもしない男気だと思ってるんだけどなあ。 それにおにーさんは長男だし!末っ子の俺とは全然違う立場だと思うんだよ。 「実家に穂波がいんのに知られてないとかあり得ねえよ」 「!?!?!?」 「それに俺たちがこういう性癖なのも、穂積が男しか無理ってことも知ってるからんな気にすることねえよ」 「オープン!オープンすぎるよ!なにがどうなってそうなったの!」 「穂積はあれでかなり悩んでたから。心配した母さんが時間かけて聞いてたよ」 「………」 「母さんも最初は驚いてたけど、あんだけ悩んで落ち込み続けた穂積見てたら反対出来なかっただろうな」 それはそれは……。 大切に育てた息子が男の人しか好きになれないことに驚きたかっただろうに、そうしてひどく傷ついた我が子を見た時ってどんな気持ちなんだろう。 俺の母さんだとそういったところ全然繊細じゃないからわっはっはって笑って、誰やって傷つくねんから若い時で儲けもんや。10年経ってたら致命的やでとかフォローにも励ましにもならないヘンテコな言葉を並べそう。 おにーさんのお母さんはどうしたのかな。 俺、おにーさんの実家は行ったことあるけどタイミング悪くてご両親は見てないんだよなぁ。 「穂高さんってどっち似?」 「父さん似。穂波もな」 「ミホちゃんはお母さん似?」 「どっちかっつーとな」 「そっかぁ」 「誠はどっち似?」 「母さん」 「ぽい」 ズボラなところが特にそっくり。 多少のことなら気にしないところも、まあなんとかなるかって行き当たりばったりなのも母さん譲り。 父さんは石橋を叩いて渡るタイプだけど、母さんは石橋が落ちる前に走り切るタイプ。そんな母さんに引っ張られてひぃひぃ言ってるのが父さんだ。 「つーか挨拶で言うならお前んちは?」 「俺んちはどうとでもなるよ。にいちゃん4人もいて孫は9人いるし」 「増えてねえ?」 「増えたよ。ちなみに年末にもう1人増えるよ」 「女?男?」 「増えた子は女の子。お腹の中の子はまだ分からないらしいけど、多分女の子だと思う」 なんとなく、俺には甥っ子は出来ない気がする。 って姪っ子の話はどうでもいい。 「俺末っ子だからそんなに気にされないと思う」 「そうか?年離れてる分愛情行きまくってる気がするけど」 「うーん。途中から姪っ子に根こそぎとられた」 「まあ仕方ねえよ。つーかお前そこまで考えてんの?」 「ええっ!?考えずに指輪は酷いよ!」 俺の左手に指輪なんて初めてだよ! これは結婚するまでとっておくって決めてたんだもん。嘘だけど。 ぶっちゃけ言うと高校生の頃はそんなの買える余裕なかったし、大学生になってからは実験中のアクセサリーは一切禁止だったから俺にしても彩綾にしても無くしそうだしとアクセサリーはしなかった。 そんなわけで俺の初めてのアクセサリーだ。 「真面目に言うとね、俺は穂高さんとずっと居たいから母さんにくらいは言っておきたいなと思ってるよ。成人してるし家も出てるけど、やっぱり母さんって俺のお母さんだもん」 あんなズボラで適当なのに、見るとこちゃんと見てる。ちょっとずれてるけど。 俺が失恋した時とかすぐにバレて、若いんやし出会いがあるから別れもあるねん。これ食べて元気だしぃと言ってステーキにゆで卵が乗ったスタミナ丼を作ってくれた。 母さんに隠し事ってあんまりできなくて、気づいたら察されてることが多い。そしてその適当さ故に何を言われても貶されてる気にもならないし励まされてる気にもならず、いい感じに力が抜ける。 そんな母さんだからなんだかんだ振り回されながらも父さんはずっとついていってるんだと思う。

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