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彩綾が行きたかったらしいお店の近くに車を停めてお店に着くとそれなりに賑わっているし、俺とおにーさん2人じゃ絶対に入らないと言い切れる。俺は好きだけど、こんなのをお昼ごはんにしたいなんて言ったら俺の管理にうるさいおにーさんは後でケーキ買ってやるから違うところにしろって言うに決まっている。 「デザートバイキング!久しぶり!彩綾ナイス!」 「でしょ?ちょっと高いんだけど、雑誌で見たらすっごい綺麗で来たかったんだよね」 「牧くんは甘いもの平気?」 「甘いものだけで満腹にすることは無理ですけど、写真とか見たらサンドイッチとかパスタもあったんで大丈夫だと思います」 「良かった」 「先輩……」 「なぁに?」 「彩綾っていつもこういうお店ばっかですか?」 「ううん。ファストフードも好きだし、焼肉も好きだよ。こういう店って地元にないから来たかっただけだと思う」 少しホッとした牧くんの様子にそう甘いものが得意ではないんだなと察する。彩綾は苦手なら苦手と言えば出来る限り避けてくれる(彩綾の誕生日の時にわがままとして辛い鍋を食べに行きたいと言われたことはある。もちろんそんな時くらい頑張った。辛くて味はよく分からなかった)。 ただそういうのも付き合った中で知ってきたことだから、そのうち知っていけばいいと思う。 「席片付けるから少し待ってって言われたけど平気?」 「「うん」」 「こういうところって待つところも無駄にオシャレだね」 それは思った。そんなオシャレなところで少し待っているとすぐに案内された。席に行くまでにチラチラと見ておいたメニューはキラキラしている。 学生時代に行ったバイキングなんかと違って、ひとつずつ小分けにされていて、そのひとつにさえきちんとデコレーションが施されていた。 「俺の場違い感が半端ない」 「誠って舌バカだもんね」 「牧くんはちゃんと味わかる人?」 「多分、普通です」 「うーん、カレーに焼き魚とかステーキ乗ってて違和感ある人?」 「むしろ違和感ない人って居るんですか?」 あ、違和感ある人なんだね。 そうか、これは彩綾も前途多難だな。 「慎吾くんごめんね」 「?」 「私、あんまり料理上手じゃないから」 「あんまり?」 「誠は黙ってて」 キッと睨まれて大人しく口を噤む。 俺の育った家庭料理の中でのルールは火を通すってことと隠し味なんてしないってこと。彩綾は残念なことに火を通す能力に欠けている。もう少し焼くなり煮るなりすればいいのに、どうしてか少し早めに切り上げて生焼け生煮えなんてことが良くあった。 俺の家でも良くあったことだから、チンして食べようで俺は全然良かったけど、たぶん普通の家で育ってる人に難しい。 「彩綾大丈夫だって」 「なにが」 「牧くんは優しいから分担してやったらいいんだよ。牧くんは一人暮らしだし、これからメキメキ腕を上げるはず」 「全く分担してない誠に言われたくない」 「痛いお言葉」 「ええっ!?」 「「??」」 「伊藤先輩付き合ってる人いるんですか!?」 「うん」 「彩綾の次ってどんな人です?」 まあ、元カノが相当美人だからなあ。 残念なことに彩綾と比べるには違い過ぎて。 「まあまあ。そんな話は食べながら。あんな美味しそうなもの見せられてこれ以上お預けとか俺の胃袋が鳴き始めるよ」 牧くんには別に話してもいいのかなとは思う。 学部生だった頃から牧くんは信用していた後輩だし、同学年のやる気のないゼミ生よりやる気のある牧くんの方が俺は好きだった。 牧くんの本心は分からないけど、彩綾のことが好きでも彩綾が吹っ切れるまで何も言うことなく、付け入るようなことも俺を貶めるようなこともしたことがない牧くんなら大丈夫な気がした。

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