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232.
何度かおかわりをしながらようやく最後の一皿と決意したデザート。
全制覇と行きたいところだけど、出てくるたびにメニューが変わってるせいで食べてないものもあるけどそろそろ限界だ。
「先輩よく食べますね」
「美味しいもん。こんなにデザートばっか普段食べれないし」
「今の人ともこういう所来るんですか?」
「来ないよ。俺がデザートでお腹を満たすなんて絶対に許してくれない」
「………?」
「野菜も食べろとか、このソフトクリームだって多分3つ目くらいだけどアイスは1日1つまでだとか、俺の管理に余念がない」
「かん、り?」
「ん、そぉ。俺今男の人が好きなの」
俺がそういうとガチャーンと食器が落ちた。
言わずもがな牧くんだ。
「は?」
「去年仕事に追い詰められすぎて、ご飯もろくに食べれず寝る時間もなくてどうしようもなかった時に飼って貰ったの」
「はい?」
「そしたらあんまりにも居心地が良くって、気づいたら付き合ってたよね」
「はあ?」
「………え、ちょっとタイムもらって良いですか?」
「どぉぞ」
戸惑う牧くんに彩綾はおかしそうに笑って、それから俺を見てごめんねと言う。何へのごめんねかは分かるけど、そのごめんは受け取れない。
俺は彩綾に嘘はついていないけど、不安な彩綾を分かってあげようとさえしなかったようなやつだ。彩綾が謝るようなことは何もない。
俺がお皿のデザートを食べ切るころに牧くんが戻って来て、少し落ち着きを取り戻したように見える。
「一応念のため聞いておきたいんですけど」
「なぁに?」
「彩綾と付き合ってた時はちゃんと彩綾のこと好きだったんですよね?とりあえず適当に女とかそんなわけでは「ないよ。そんな気持ちで彩綾と付き合ってない。それは言い切って良い」
「………なら良いです」
「牧くんって、ほんとに彩綾のこと好きなんだね」
「伊藤先輩のことも好きですよ。だから、2人が幸せそうなら俺は言うつもりなかったんです」
知ってる。
彩綾のことを好きな人からのやっかみはあった。それそこわざわざ数えていないくらいには。
あんな美人さんがこんなんで良いの!?なら俺も行ける?みたいな感じで俺が邪魔だと思う奴も居たと思う。
けど、牧くんはそんなことなかった。
そんな彼にだからこそ、俺は伝えたいことがある。
「牧くん」
「はい」
「彩綾の幸せを守るんじゃなくて、幸せにしてみせるって言ってくれるような男にならなきゃ彩綾の彼氏としては認めないからね」
「誠がお兄ちゃんみたいなこと言ってる」
「彩綾のお兄さんってそんな感じなの?」
「今の俺の言葉の5倍くらいは重いシスコンと思ってたら大丈夫」
「それ全然大丈夫じゃないですよね!?」
まあ、大丈夫じゃないけど大丈夫だ。
俺が男と付き合ってることよりも、俺が彩綾と適当に付き合ってなかったかを、彩綾を傷つけるようなことをしてなかったかと心配するような牧くんだから。
そんな風に彩綾を大切にしていることがお兄さんに伝われば何の問題もない。
「伊藤先輩が男の人と付き合ってるのはまあ、はい分かりました。大した問題ではないです」
「ありがとぉ」
「けど、その管理?ってなんです?かうって、お金で買うの買うですか?ちょっと意味わかんないんですけど」
「管理は管理。食事にはすごくうるさい。買い食いも何個までとかよく言われるよ。そして、かうは飼う。犬や猫を飼うの飼うだよ」
「先輩、そんなに追い詰められてたんですか?」
「うん。一人暮らししてから俺の友達ってシリと炊飯器と洗濯機だったし」
その言葉に驚くのは牧くんだけじゃなくて彩綾もだった。
俺は去年、彩綾にそんな状況に追い込まれてたとも説明していなかったと言うことだ。
甘え過ぎで本当に恥ずかしいばかりだ。
「なんか伊藤先輩見てると俺ってちっぽけだなって思います」
「?」
「彩綾と付き合ってて僻まれてもけろっとしてるし、別れてちょっと酷いように言われてても気にした様子もなくて、世間や常識を越えて知らないところ歩いて行くとかすごいです」
「「美化しすぎ!」」
俺はそんなすごいやつじゃない。
僻むやつは何を言っても僻むだろうし、あの時の彩綾は俺を責める以外出来なかっただろうから仕方ない。
そして世間や常識を越えた自覚はほんのりあるけど、越える必要は特になかったとも思う。
ただ常識や世間から離れたとしても俺にはおにーさんが必要で、依存してると言うだけだ。
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