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235.
彩綾と牧くんと遊んだ翌日、7月の最後の週が始まった。
お盆についての話は少し前から出ていたけど、振替で休みが貰えるなら全部出勤出来ますと言っていた俺が居たからか、技術部は今年も俺以外が休みを取るようだった。
そう、俺以外が。
「伊藤さんお盆まで働くんですか?」
「うん。振替で休みも取れるし俺はその方がいいかな」
「?」
「9月に出来るだけ休みたいから」
キョトンとされるけど、そこまで詳しく話してあげる義理はない。
9月はおにーさんが忙しくなる時期だ。
忙しくなる時期、なぜか俺というぐうたらした奴が家に居ないことで余計にイライラするらしいおにーさんだから俺は出来るだけ早く帰るのだ。
休めるなら休んでおにーさんの帰りを待っていてあげたい。おにーさんがいいよと言ってくれたらご飯も作って待っていたい。
そんな気持ちがあるから振替が貰えるならお盆に働くのは大歓迎なのだ。
俺的にそういう気持ちがあってお盆に出れますと言ってるのに、野田さんも内村さんも鈴木さんも今年も?自分たちが出ようか?と言ってくれた。それはもちろん丁寧に断ったけど。
お盆の予定をおにーさんに聞いてみたことはあるけど、なんの悩みも躊躇いもなくお前仕事だろと言ってくれたのは記憶に新しい。
俺がなかなか連休を取れないことやお盆も技術部が稼働してると知ってるから、最初からなんの期待もされてなかった。
お盆の話が技術部内で大方纏まり、それぞれの今日の予定を話して仕事に散っていく。今日はX線からと荷物を持っててこてこ廊下を歩いていると前から営業さんが走ってくる。
「はあっ!伊藤くん!これっ!」
「見てもらえましたか?結果はもう少し前に出てたんですけど、纏めるのに少し時間がかかって」
「いや、それはいいよ!これほんと?」
「はい」
「つまりこれは使えるってこと!?」
「そうなります。従来品より少し変色が激しいですけど、製品の性能としての耐性は変わりないと言えます。一応検査をしないまま変色したサンプルも別に用意してます」
「ありがとう!先方に連絡してもいい?」
「はい。しばらく俺は会社を出てる予定はないんで、いつでも大丈夫です」
取引先に行ったのは冬で、結果が出たのは夏。
これでも俺の仕事にしては早く結果が出た方だ。
社長が機器を買ってくれて、検査をしてみると予想通りの変色が見られたけど、従来と同じように見た目の美しさは損なわれても製品に求められる性能は維持していた。
念のため従来品も同じように検査にかけたし、先方と話した以上に負荷をかけたサンプルもあった。
サンプル見せてもらってもいい?と頼まれて、俺は来た道を戻って技術部に戻る。近いうちに来ることは分かっていたから、すぐに取れるところに置いていたものを引っ張り出す。
負荷条件を書いて、サンプルが並べられたボードは俺の手作りだ。
「変色が酷いな」
「そうですね。元の色が分からないくらい真っ黒です」
「けど性能としては問題無いんだよな?」
「はい。これが結果です」
もちろん僅かな差はある。
いつ測ってもそうだけど、全く同じ結果が出ないのが俺のやってる仕事。この差が劣化では無いと言うことは統計処理もかけてきちんと証明している。
うんうんと唸る営業さんを見ながら、問題があったかな…と少し不安になる。
「変色の原因は?」
「従来品と同じように考えるなら下処理の問題になると思います」
俺がやってる試作。
元となった従来品であれば下処理違いから工程違いまで色々とある。故に研究データも会社には多くあって、その中で下処理を変えると同じ負荷をかけても変色しなかったデータもあった。同じように考えるなら下処理を変えればいい話なんだけど……
「下処理違いは無理?」
「すみません」
そう求められるのも分かってたから、試しに下処理違いを作ってみたのだ。その結果は芳しく無い。
「従来品で変色しない方法で作ってみたのがこれです」
「なにしたの?」
「特に何も。ただ作っただけです。負荷もかけて無いです」
「………こりゃ無理だな」
「はい、すみません」
作っただけで端から剥離した。
こうなる予想は立てていたけど予想通りすぎて笑う気にもなれなかった。
「だけど、やっぱりこれだと変色しなかったんです」
「こっち?」
「はい。製品として使えないことは置いておいておくとして、変色は確認できませんでした」
「伊藤くんって自分から仕事増やしてるよな」
「………俺もそんな気がします」
頼まれてないことまでやっちゃうせいでただでさえない時間がどんどんなくなるのは自分でも分かってる。だけど、せっかくそれを試すことが許されている環境で、試しもせずに無理ですなんて俺は言う気になれないだけだ。
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